講演情報
[認定P-10]化学療法により骨髄抑制と心不全の増悪を来した高齢がん患者に対して抜歯を行った一例
○服部 馨1、久野 彰子1 (1. 日本医科大学付属病院 口腔科)
【緒言・目的】
がん治療の一つである化学療法は,骨髄抑制や合併症が生じる事があるため,観血的処置を行う時期に注意が必要である。今回,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する化学療法で骨髄抑制と心不全の増悪を来した患者に対して,複数の診療科と連携を取りながら抜歯を行った1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
82歳,女性。心房細動,徐脈頻脈症候群(2014年ペースメーカー留置),無症候性心筋虚血(2015年経皮的冠動脈インターベンション),大腸癌(2015年結腸右半切除術),糖尿病,高血圧の既往あり。2024年6月に甲状腺未分化癌疑いにて甲状腺生検術が全身麻酔下で行われた際に右下4⑤⑥ブリッジが脱落した。右下5はう蝕,右下6は歯根破折が認められたため,抜歯適応であった。生検結果によりDLBCL(StageⅠE 甲状腺,IPI2点)と診断され,化学療法が開始された。ブリッジ脱落部位に接触時痛があり,抜歯予定としたが,化学療法による心不全の増悪で呼吸困難が生じ,抜歯は延期した。その後,心不全が改善したため,循環器内科医に抜歯する旨を伝え,了承を得てから7月30日に抗凝固薬(アピキサバン)内服下で,右下6を抜歯した(血小板数125,000/μL,PT/秒20秒,APTT40.6秒,HbA1c7.0%)。抜歯窩に酸化セルロースを挿入し,縫合を行い,圧迫止血を試みたが,止血困難であったため,電気メス凝固モードを用いて止血した。再出血に備えて止血シーネを作製したが、使用せずに止血は保たれた。その後,右下5の抜歯も予定したが,大動脈弁狭窄症に対して経カテーテル大動脈弁植え込み術が予定されたため延期した。循環動態が落ち着き,化学療法が再開となったため,骨髄抑制期(白血球数1,100/μL,血小板数61,000/μL)を避けて血球回復(白血球数8,300/μL,血小板数64,000/μL)を確認後,10月30日に右下5の抜歯を行った。抜歯窩の治癒を確認後,部分床義歯を作製した。
なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
抜歯は,化学療法の各サイクル開始前か終了後に行うのが安全とされている。高齢がん患者においては,がん以外にも複数の疾患を有していることが多いため,化学療法中の抜歯時期の調整,および各疾患の病態と,薬剤に対する配慮が必要であった。本症例では複数の診療科と連携を取りながら,患者の全身状態の変化に応じて観血的処置が行えたと考える。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)
がん治療の一つである化学療法は,骨髄抑制や合併症が生じる事があるため,観血的処置を行う時期に注意が必要である。今回,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する化学療法で骨髄抑制と心不全の増悪を来した患者に対して,複数の診療科と連携を取りながら抜歯を行った1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
82歳,女性。心房細動,徐脈頻脈症候群(2014年ペースメーカー留置),無症候性心筋虚血(2015年経皮的冠動脈インターベンション),大腸癌(2015年結腸右半切除術),糖尿病,高血圧の既往あり。2024年6月に甲状腺未分化癌疑いにて甲状腺生検術が全身麻酔下で行われた際に右下4⑤⑥ブリッジが脱落した。右下5はう蝕,右下6は歯根破折が認められたため,抜歯適応であった。生検結果によりDLBCL(StageⅠE 甲状腺,IPI2点)と診断され,化学療法が開始された。ブリッジ脱落部位に接触時痛があり,抜歯予定としたが,化学療法による心不全の増悪で呼吸困難が生じ,抜歯は延期した。その後,心不全が改善したため,循環器内科医に抜歯する旨を伝え,了承を得てから7月30日に抗凝固薬(アピキサバン)内服下で,右下6を抜歯した(血小板数125,000/μL,PT/秒20秒,APTT40.6秒,HbA1c7.0%)。抜歯窩に酸化セルロースを挿入し,縫合を行い,圧迫止血を試みたが,止血困難であったため,電気メス凝固モードを用いて止血した。再出血に備えて止血シーネを作製したが、使用せずに止血は保たれた。その後,右下5の抜歯も予定したが,大動脈弁狭窄症に対して経カテーテル大動脈弁植え込み術が予定されたため延期した。循環動態が落ち着き,化学療法が再開となったため,骨髄抑制期(白血球数1,100/μL,血小板数61,000/μL)を避けて血球回復(白血球数8,300/μL,血小板数64,000/μL)を確認後,10月30日に右下5の抜歯を行った。抜歯窩の治癒を確認後,部分床義歯を作製した。
なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
抜歯は,化学療法の各サイクル開始前か終了後に行うのが安全とされている。高齢がん患者においては,がん以外にも複数の疾患を有していることが多いため,化学療法中の抜歯時期の調整,および各疾患の病態と,薬剤に対する配慮が必要であった。本症例では複数の診療科と連携を取りながら,患者の全身状態の変化に応じて観血的処置が行えたと考える。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)