講演情報

[認定P-12]鼻咽腔閉鎖不全患者に対して軟口蓋挙上装置を用いて摂食嚥下機能の改善を図った一症例

○大保 直道1、藤井 航2 (1. 医療法人福和会 行橋グリーン歯科医院、2. 九州歯科大学口腔保健学科多職種連携推進ユニット)
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【緒言・目的】軟口蓋挙上不全による鼻咽腔閉鎖不全に対して軟口蓋挙上装置(以下PLP)は有効な治療方法とされている。本症例では,軟口蓋挙上不全による鼻咽腔閉鎖不全に対して多職種と連携しPLPを製作し,機能改善を認めた。【症例および経過】67歳,女性。主訴:食事時に鼻に物が入ってくる。既往歴:多系統萎縮症。介護付き有料老人ホーム入所中。身長158cm,体重43.4㎏,BMI 17.4と低体重であった。初診時,軟口蓋挙上不全による鼻咽腔閉鎖不全が疑われた。間接訓練としてブローイング訓練を行ったが,改善は認められなかった。その後,内科担当医よりPLPの製作依頼があった。義歯との一体型のPLP製作を計画し,最初に上顎部分床義歯(右上7654左上1234567欠損)を製作した後に,PLP挙上子部分を製作した。歯科技工士と相談の上,可及的に違和感を減少させるため,通常のPLPより違和感が少ないとされている挙上子に軟性レジンを使用したモバイル型 PLPを選択した。装着当初は違和感の訴えを認めたが,徐々に食事時の違和感も減少し,食事量も増加した。使用開始4週間後に,挙上子のワイヤーが破折したため再製作を行った。再製作の際はワイヤーを太くし破折しにくい設計とした。モバイルPLP装着前後では,発声時の息漏れを認めなくなり,ブローイング時間が18秒から31秒と増加した。RSSTは2回から3回へ増加,内科担当医による嚥下造影検査において,鼻咽腔への逆流を認めなくなったとの評価であった。外部の言語聴覚士による発話明瞭度の評価ではどちらも5段階評価の2(時々分からないことがある)であり大きな変化は認めなかった。また,患者からは「今まで食べられなかったコロッケが丸ごと食べられた」と喜びの声が聞かれた。その後,体重は1か月で42.8㎏から44.9㎏へ2.1㎏増加した。今後も,挙上子部分の破折に注意しながら継続的に管理するとともに,間接訓練と組み合わせて機能の維持・向上を図っていく予定である。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。【考察】PLPの製作により,鼻咽腔閉鎖不全が改善し,患者の食べる楽しみを取り戻すことに寄与することができたと考える。また,本症例においては内科担当医,歯科技工士,言語聴覚士など多職種と必要に応じて連携を取りながら診療を進めた。患者の機能回復のため,必要に応じて多職種連携が実現していくものであることを体感することができた。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)