講演情報
[認定P-22]右側鼻腔癌および骨格性下顎前突症を伴う,長期に義歯使用歴のない上下顎無歯顎患者に対する欠損補綴症例
○大川 純平1、堀 一浩1 (1. 新潟大学大学院医歯学総合研究科 包括歯科補綴学分野)
【緒言・目的】
長期に義歯使用歴のない高齢者では,義歯の適応が困難となる可能性がある。今回,右側鼻腔癌への放射線治療と化学療法の同時併用療法(以下,CCRT)後のQOL低下を契機に上下顎総義歯を製作し,良好な経過が得られたので報告する。
【症例および経過】
68 歳,男性。糖尿病,高血圧症,高脂血症,高尿酸血症,滲出性中耳炎の既往あり。約25年前に上下顎無歯顎となったが,違和感のために上下顎総義歯を使用せず生活していた。
前医にて右側鼻腔乳頭腫に対し内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行後,永久病理から鼻腔癌と診断され,追加治療目的に当院初診となった。CCRT施行中の口腔支持療法時に「味がせず食事を楽しめない」を主訴に義歯製作を希望された。義歯製作時の検査から,口腔乾燥と下顎前突を認め,OHIP-14は20点,咀嚼能率スコア法はスコア0であった。また,嗅覚障害と味覚障害を呈し,軟菜食の喫食率は0〜50%,体重は入院時の69.8kgから61.0kg(BMI:23.6から20.6),アルブミン値は3.3g/dLまで減少していた。
口腔粘膜炎の軽快を待って概形印象を行い,個人トレーを用いた選択的加圧印象を行った。咬合採得では,咬合床を用いたリップサポートの検査から正常被蓋で排列を行うこととし,水平的顎間関係はゴシックアーチ描記法により決定した。排列試適後,両側性平衡咬合を付与した上下顎総義歯を装着し,義歯装着時の側面セファログラムから骨格性下顎前突症と診断した。義歯調整後,OHIP-14は6点,咀嚼機能はスコア5に改善した。治療後6か月時には常食を摂取され,アルブミン値は3.9g/dL,体重は64.0kg(BMI:21.6)に増加した。また,補綴歯科治療中も口腔支持療法を継続した。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
放射線治療に伴う様々な症状は,QOLの低下や栄養状態の悪化を招くことがある。特に,口腔乾燥は粘膜の保護作用を低下させ,義歯使用時の疼痛や易脱離の原因となる。本症例は,長期に義歯の使用がなく,義歯への適応能力も低下している可能性があり,義歯の安定を最大化する必要であった。そこで,顎間関係と排列位置の決定を慎重に行うことで,咀嚼機能に加え口腔関連QOLや栄養状態の改善に繋がったと考えられる。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)
長期に義歯使用歴のない高齢者では,義歯の適応が困難となる可能性がある。今回,右側鼻腔癌への放射線治療と化学療法の同時併用療法(以下,CCRT)後のQOL低下を契機に上下顎総義歯を製作し,良好な経過が得られたので報告する。
【症例および経過】
68 歳,男性。糖尿病,高血圧症,高脂血症,高尿酸血症,滲出性中耳炎の既往あり。約25年前に上下顎無歯顎となったが,違和感のために上下顎総義歯を使用せず生活していた。
前医にて右側鼻腔乳頭腫に対し内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行後,永久病理から鼻腔癌と診断され,追加治療目的に当院初診となった。CCRT施行中の口腔支持療法時に「味がせず食事を楽しめない」を主訴に義歯製作を希望された。義歯製作時の検査から,口腔乾燥と下顎前突を認め,OHIP-14は20点,咀嚼能率スコア法はスコア0であった。また,嗅覚障害と味覚障害を呈し,軟菜食の喫食率は0〜50%,体重は入院時の69.8kgから61.0kg(BMI:23.6から20.6),アルブミン値は3.3g/dLまで減少していた。
口腔粘膜炎の軽快を待って概形印象を行い,個人トレーを用いた選択的加圧印象を行った。咬合採得では,咬合床を用いたリップサポートの検査から正常被蓋で排列を行うこととし,水平的顎間関係はゴシックアーチ描記法により決定した。排列試適後,両側性平衡咬合を付与した上下顎総義歯を装着し,義歯装着時の側面セファログラムから骨格性下顎前突症と診断した。義歯調整後,OHIP-14は6点,咀嚼機能はスコア5に改善した。治療後6か月時には常食を摂取され,アルブミン値は3.9g/dL,体重は64.0kg(BMI:21.6)に増加した。また,補綴歯科治療中も口腔支持療法を継続した。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
放射線治療に伴う様々な症状は,QOLの低下や栄養状態の悪化を招くことがある。特に,口腔乾燥は粘膜の保護作用を低下させ,義歯使用時の疼痛や易脱離の原因となる。本症例は,長期に義歯の使用がなく,義歯への適応能力も低下している可能性があり,義歯の安定を最大化する必要であった。そこで,顎間関係と排列位置の決定を慎重に行うことで,咀嚼機能に加え口腔関連QOLや栄養状態の改善に繋がったと考えられる。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)