講演情報

[認定P-23]補綴歯科治療および口腔機能管理によってフレイルが改善した症例

○鎌田 聡仁1、田坂 彰規2 (1. 東京歯科大学千葉歯科医療センター、2. 東京歯科大学パーシャルデンチャー補綴学講座)
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【緒言・目的】口腔機能低下症は、近年の歯科領域において重要な問題である。健康寿命と平均寿命の差を縮めるためには、日常の食事や運動習慣、歯の健康維持が重要である。今回、補綴歯科治療および口腔機能管理によって口腔機能低下症を改善した症例を経験したので報告する。患者は88歳の女性で、下顎臼歯の欠損による咀嚼困難を主訴として来院した。15年前から高脂血症、高血圧で治療中である。2年前に脳梗塞を発症したが、後遺症はない。本症例は義歯製作による補綴歯科治療と口腔機能管理によるフレイルの改善を目的とした。なお脳梗塞の既往があるので、モニタリング下での歯科治療に配慮した。
【症例および経過】患者は88歳の女性で、下顎臼歯の欠損による咀嚼困難を主訴として来院した。15年前から高脂血症、高血圧の治療を受けている。2年前に脳梗塞を発症したが、後遺症はない。臼歯欠損部の咬合支持を確保するため、暫間義歯の製作を開始した。また、最近1年間での体重減少が著しく、フレイルが疑われたため、口腔機能低下症の検査を行った。口腔水分量、舌苔の付着度、咬合力、口腔閉鎖機能、最大舌圧の5項目が低値であったため、口腔機能低下症と診断した。暫間義歯製作後、最終補綴装置製作に向けて歯周治療や補綴的前処置を行った。治療はすべてモニタリングの管理下で行った。口腔機能管理では、こまめな水分補給と唾液腺マッサージを行い、口唇閉鎖機能の訓練には吹き戻しを使用するように指導した。舌圧に関しては「あいうべ体操」を指導した。また、口腔衛生指導の一環として、舌ブラシの使用も指導した。栄養面では、1週間のお食事手帳の記載内容を確認し、タンパク質を積極的に摂取するよう指導した。また、カロリーの高い栄養補助食品をすすめた。暫間義歯での咬合が安定し、残存歯の前処置が終了した段階で、新義歯を製作した。新義歯装着半年後の口腔機能低下症の検査ではすべてが正常値となった。体重は8kg増加し、OHIP-Jは151から83まで改善した。なお、本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】咀嚼機能の回復および口腔機能が向上によってフレイルは改善された。治療終了後、患者は水泳教室に通い、親戚と週に1度外食に出掛けたりするようになった。補綴治療および口腔機能管理を通じて、身体的フレイルだけではなく、社会的フレイルの改善に寄与できた。