講演情報
[認定P-24]関節リウマチ患者に対して全部床義歯を製作し口腔機能の改善を図った症例
○豆野 智昭1 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座)
【緒言・目的】
関節リウマチ(RA)は,高齢者の自己免疫疾患として最も多く,関節機能の障害により日常生活動作を低下させる。歯科治療時には,長期の薬物療法による免疫力の低下や骨粗鬆症に加え,顎関節の変形による不正咬合や開口障害,咀嚼機能の低下に注意が必要である。今回,顎関節の吸収を伴うRA患者に対し,全部床義歯による口腔機能の回復を図り,良好な結果を得た1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
84 歳,男性。RA,変形性腰椎症,ネフローゼ症候群,高血圧,高尿酸血症の既往あり。2019年7月に上顎全部床義歯の製作を希望して当科受診。近医にて製作した義歯の調子が悪く,食事がしにくいとのことであった。全身所見として,身長160 cm,体重53 kg,自立歩行は可能であるが,長距離の移動時は車椅子を使用していた。リウマトイド因子は92 IU/mlと高値であったが,CRP定量は正常値であった。食事は軟菜食が中心であり,総蛋白(6.5 g/dL),アルブミン値(3.3 g/dL)は,ともに低値を示した。上顎は無歯顎であり,義歯の大臼歯部人工歯に著しい咬耗ならびに粘膜面に不適合を認めた。右側下顎頭の扁平化ならびに開口制限を認めたものの,顎関節部の疼痛やクレピタスなどの症状は認めなかった。患者は,姿勢保持のための食いしばりを自覚していた。口腔機能精密検査の結果,口腔不潔,口腔乾燥,咬合力低下,舌口唇運動機能低下,咀嚼機能低下を認めた。これらに対し,金属歯を用いた金属床義歯の製作,口腔清掃指導ならびに関節機能の維持・改善のための開口訓練,両側側頭筋,咬筋のマッサージを指導した。その結果,口腔衛生状態,咬合力,咀嚼機能の改善ならびに口腔関連QOLの向上を認めた。治療後は,栄養状態が改善(体重55kg,総蛋白7.1 g/dL,アルブミン値4.1 g/dL)し,現在に至るまで良好な経過を維持している。なお,本報告の発表について患者から文書による同意を得ている。
【考察】
本症例では,全身状態に起因する異常習癖に対して,金属歯を用いることで咬合の安定を図り,咀嚼機能を改善・維持することで,栄養状態の改善につながったと考えられる。今後も,薬剤の副作用等による併発疾患の状態や,老化による変化を把握しながら,定期的な口腔管理を継続する予定である。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)
関節リウマチ(RA)は,高齢者の自己免疫疾患として最も多く,関節機能の障害により日常生活動作を低下させる。歯科治療時には,長期の薬物療法による免疫力の低下や骨粗鬆症に加え,顎関節の変形による不正咬合や開口障害,咀嚼機能の低下に注意が必要である。今回,顎関節の吸収を伴うRA患者に対し,全部床義歯による口腔機能の回復を図り,良好な結果を得た1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
84 歳,男性。RA,変形性腰椎症,ネフローゼ症候群,高血圧,高尿酸血症の既往あり。2019年7月に上顎全部床義歯の製作を希望して当科受診。近医にて製作した義歯の調子が悪く,食事がしにくいとのことであった。全身所見として,身長160 cm,体重53 kg,自立歩行は可能であるが,長距離の移動時は車椅子を使用していた。リウマトイド因子は92 IU/mlと高値であったが,CRP定量は正常値であった。食事は軟菜食が中心であり,総蛋白(6.5 g/dL),アルブミン値(3.3 g/dL)は,ともに低値を示した。上顎は無歯顎であり,義歯の大臼歯部人工歯に著しい咬耗ならびに粘膜面に不適合を認めた。右側下顎頭の扁平化ならびに開口制限を認めたものの,顎関節部の疼痛やクレピタスなどの症状は認めなかった。患者は,姿勢保持のための食いしばりを自覚していた。口腔機能精密検査の結果,口腔不潔,口腔乾燥,咬合力低下,舌口唇運動機能低下,咀嚼機能低下を認めた。これらに対し,金属歯を用いた金属床義歯の製作,口腔清掃指導ならびに関節機能の維持・改善のための開口訓練,両側側頭筋,咬筋のマッサージを指導した。その結果,口腔衛生状態,咬合力,咀嚼機能の改善ならびに口腔関連QOLの向上を認めた。治療後は,栄養状態が改善(体重55kg,総蛋白7.1 g/dL,アルブミン値4.1 g/dL)し,現在に至るまで良好な経過を維持している。なお,本報告の発表について患者から文書による同意を得ている。
【考察】
本症例では,全身状態に起因する異常習癖に対して,金属歯を用いることで咬合の安定を図り,咀嚼機能を改善・維持することで,栄養状態の改善につながったと考えられる。今後も,薬剤の副作用等による併発疾患の状態や,老化による変化を把握しながら,定期的な口腔管理を継続する予定である。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)