講演情報

[認定P-25]義歯適合不良と口腔機能低下による咀嚼障害に対して補綴処置および口腔機能管理を行った症例

○辻 将1、山根 源之1 (1. すずき歯科医院)
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【緒言・目的】
 義歯使用高齢者の口腔機能低下は義歯不適合と口腔周囲筋の衰えによる複合的な原因が多い。顎堤吸収した多数歯欠損患者の義歯製作は難易度が高く,口腔機能が低下した高齢者の機能に合った義歯にすることはより難しい。今回,義歯の設計不良が大きな原因であった口腔機能低下に対し,新義歯製作を行ったことで口腔機能が向上した 1 例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 85 歳,男性。前立腺肥大の既往あり。「下の入れ歯が浮いてきて食事中物が挟まる」との主訴で来院した。下顎右側側切歯のみ残存し,上顎総義歯,下顎部分床義歯であった。開閉口運動時に下顎義歯が残存歯の動揺とともに臼歯部からの浮き上がりを認め,食渣が義歯内面に付着していた。一方,舌圧が28.2kPaあったこと,食事時のむせや食べこぼし等がないことから著しい口腔周囲筋の低下はないと判断した。アンケートでは「食べられないものや義歯を新製して食べられるようになりたいものがない」と意欲低下も認めた。人工歯排列位置と床縁形態の不良による義歯不適合があったため,早期に新義歯製作を行い咀嚼機能の回復を計った。また,作業効率を上げるため,口腔内スキャナー(IOS)を用い,義歯製作はCAD/CAMにて行った。新義歯装着後,咬合力が前義歯の23.6Nから405.2Nまで上昇し,咀嚼能率は測定不可から96mg/dLとなった。舌表面の乾燥状態も21.1から26.5まで潤った。「この入れ歯を周りの人に自慢したい」との言葉から食事することに対する意欲も感じられた。現在は3か月ごとの口腔機能管理を行っている。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 従来,義歯製作では,概形印象,精密印象,咬合採得,試適,装着と5回以上かけて装着していた。今回,粘膜面を初診時にIOSにて採得,デンチャースペースを2回目に記録し,3回目には装着する計画で行った。IOSを用いた口腔内のデジタル化による義歯製作によって,完成までの工程を減らすことができ,従来の印象採得を行わないことで材料の誤嚥のリスクも減らすことができた。また,ニュートラルゾーンの中で義歯床縁,排列位置を決定したことで浮き上がりのない義歯を製作し,食べる意欲が増したことで咀嚼力向上に繋がったと考えられる。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)