講演情報

[認定P-26]口腔機能低下症の高度顎堤吸収患者に義歯製作と機能訓練をしたことで食事意欲向上と全身状態が改善した症例

○栗谷川 輝1、河相 安彦1 (1. 日本大学松戸歯学部有床義歯補綴学講座)
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【緒言・目的】
 近年高度顎堤吸収の患者が増加し総義歯の難症例化が進んでおり口腔機能低下症も併発している場合が多く対応が複雑化しやすい。今回の症例は高度顎堤吸収と口腔機能低下症に対して治療を行い全身的管理に配慮したことで主訴の改善に寄与できたため報告する。
【症例および経過】
 82歳女性。高血圧,腰椎変性すべり症の既往。最近食物が食べづらいとの主訴。下顎高度顎堤吸収を呈し内面に軟質リライン材が施された総義歯を装着。義歯は人工歯の咬耗が顕著で内面は不適合。口腔機能検査で舌口唇運動機能(/pa/音:5.4回/秒,/ta/音:5.0回/秒,/ka/音:4.6回/秒)舌圧(23.2kPa)咀嚼機能検査(86mg/dl)咬合力(169N)で低下を認め口腔機能低下症と診断。簡易栄養評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form:MNA)10点。BMI20.5。ADL(Barthel Index)100点。今回は舌口唇運動機能,咬合力,咀嚼機能の向上を目的に新義歯製作,舌圧低下はペコパンダを用いて舌圧訓練,栄養状態改善に食品摂取の多様性スコア(DVS)を用いた栄養指導を実施。治療時腰椎変性すべり症の影響で長時間の座位や水平位が困難なためユニット角度45~60°とし後頚部にタオルを置き安全に配慮。義歯製作はフレンジテクニックを実施。完成義歯は硬い物が噛みづらいとの訴えのためダイナミック印象を行い間接法で軟質リライン。舌圧はペコパンダS(舌圧10kPa相当)からMH(舌圧25kPa相当)まで訓練。最終的に舌口唇運動機能(/pa/音:5.8回/秒,/ta/音:5.8回/秒,/ka/音:5.4回/秒)咀嚼機能(139mg/dl)咬合力(217N)舌圧(32.4kPa)まで改善。MNA12点、BMI23.1に上昇しDVS5点から7点に改善。
 本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 フレンジテクニックにより義歯への口腔周囲筋の影響を緩和し軟質リライン材が使用感の向上に寄与した。舌圧低下には顕著な改善がみられ,DVSを用いた指導により栄養状態が改善し食事への意欲向上もみられた。今回の症例では歯科治療を含めた包括的管理を行ったことで口腔内だけでなく全身状態の改善も達成できた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)