講演情報

[認定P-27]顎堤部電撃様疼痛と摂食嚥下障害に対してインプラント補綴と機能訓練により改善を図った症例

○櫻井 智章1、西 恭宏2 (1. 鹿児島大学 義歯インプラント科、2. 鹿児島大学 口腔顎顔面補綴学分野)
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【緒言・目的】
 近年,口腔機能の低下が全身状態やQOL に影響を与える事が報告されている。今回,顎堤電撃様疼痛と摂食嚥下障害を有する高齢者に対して歯科治療を行い,口腔機能と全身状態が改善した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 70 歳,女性,後縦靭帯骨化症,高血圧を有する。近医で義歯を製作後下顎右側に電撃様疼痛を生じ,義歯調整で寛解しないことから当院を紹介された。上顎は総義歯,下顎は両側遊離端部分床義歯であったが装着しておらず,右側オトガイ孔開口部の触診により,義歯装着時と同様の電撃様疼痛を認めた。また食事後半において水分摂取時のむせを訴えた。口腔機能低下症の検査では聖隷式嚥下質問紙を含む6項目で低下していたがRSST,MWST は正常であった。またサルコペニア評価において,握力と歩行速度の低下が認められた。嚥下障害の原因は関連筋群の廃用に加え,食事時の痛みに対する不安も関係していると考えられた。そこで廃用に対してはあいうべ体操,舌・口輪筋の訓練,シャキアおよびおでこ押し訓練を指導した。また食事時の痛みに対してはインプラント支台によるボーンアンカードブリッジによる治療を行うこととした。インプラント埋入を行うまでの期間,義歯による痛みは,義歯調整を行い一時軽快した。しかし日ごとに増悪しインプラント埋入直前には食事が満足に出来ない状態になっていた。 軟食の摂取を指導したが,食事量の減少に伴い,初診時からインプラント埋入時までに2.5 ㎏の体重減少を認め,筋力の低下から歩行も困難な状態になった。インプラント埋入および上部構造装着後から食事時の痛みはなくなり,誤嚥も改善したが,低舌圧および咀嚼機能はインプラント埋入前より低下が認められたため,訓練の継続を指示した。上部構造装着9 ヵ月後には,口腔機能低下およびプレフレイルも改善した。なお,本報告の発表については患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 食事時に痛みなく咀嚼できることで,食塊形成が容易となったことで,むせも消失し,舌圧や咬合力も回復した。また食事に対するストレスが無くなったため外出頻度も増えそれに伴い友人との外食も増え,QOL と自立度の向上に寄与できた。口腔機能の状態を把握とある程度の全身状態の評価も必要であると考えられた。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)