講演情報

[認定P-29]歯科の介入により専門科に繋ぐことで診断された高齢食道アカラシアの一例

○五條 菜央1、野原 幹司1,2 (1. 大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部、2. 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学講座)
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【緒言】
 摂食嚥下の臨床場面で「食事のつかえ感」はよくある症状の一つであるが, 咽頭期までに異常を認めない場合には経過観察となることがある。しかしながら, 自覚的につまっていると感じる部位と実際に病変が生じている部位が乖離していることがあり, 咽喉頭部の訴えがあった場合に同部位の評価のみでは不十分で疾患の見落としに繋がる可能性がある。今回, 我々は数年にわたり喉のつかえ感を訴えていた高齢患者の症状や検査結果から食道アカラシアを疑い, 専門科に繋げることで診断された症例を経験した。
【症例および経過】
 80 歳,女性。当部初診時(2024年5月7日)の約3年前から食事の喉のつかえ感と食事中の嘔吐があった。2年前に行った上部消化管内視鏡検査では異常は認められなかった。かかりつけの内科・耳鼻科で相談したが原因不明で, 消化器内科では逆流性食道炎の診断でPPIが処方されるも改善せず耳鼻科から当部の受診を勧められた。患者は症状が出始めてから2kg痩せたものの, 普通体重, 意思疎通良好でADLは自立していた。嘔吐という症状から食道病変も疑われたが, まずは訴えのある咽喉頭部の評価を行うために嚥下内視鏡検査を実施した。咽頭期までに問題は無く検査中に症状は無かったが, 検査後10分程経過して少量の嘔吐を認めた。後日, 食道以下の確認のために嚥下造影検査を行った。咽頭期までに問題は無かったが, 中部~下部食道にかけて食道の拡張・狭窄・蛇行, 食道痙攣などの食道運動障害を認めた。症状と検査所見から食道アカラシアが疑われたため, POEM療法を行える専門科を有する病院に紹介し同診断がついた。患者は手術に対して消極的で芍薬甘草湯を処方され紹介先の病院は終診となった。その後, 服薬により症状の改善を認めるものの体重減少を認めたため, 食道を通りやすい食形態の指導や管理栄養士に依頼して栄養指導を行いながらフォローを継続している。今後, 患者の手術に対する希望があれば再度専門科に繋げる予定である。なお, 本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
【考察】
 咽喉頭部の他覚的・自覚的症状が明確に存在する場合, 咽頭期に問題が無いことを精査するだけで無く, 食道病変を念頭に置き診療することが重要である。特に, 嘔吐は食道病変を示唆する症状であり, 上部消化管の精査へ繋げることが必要であると考えられた。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)