講演情報

[認定P-30]協力性が得られない認知症患者に静脈内鎮静法を用いて歯科治療を行った症例

○福島 仁美1、平塚 正雄1,2 (1. 医療法人社団秀和会 小倉南歯科医院、2. 医療法人社団秀和会 小倉北歯科医院)
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【緒言・目的】
 認知症が進行した患者では歯科治療に協力性が得られない症例も少なくない。歯科治療に協 力性が得られない症例では静脈内鎮静法下の歯科治療は有効な選択肢の一つになる。今回,協 力性が得られない認知症患者に静脈内鎮静法を用いて歯科治療を行い,良好な経過が得られた 1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 88歳女性。アルツハイマー型認知症。シェアハウスに入居中。歯がボロボロでご飯が食べにく いという理由でケアマネージャーより訪問診療の依頼を受けた。初診時の口腔診査では口唇に触 れると大声で叫ぶなどの不適応行動が認められた。口腔衛生状態は不良で歯肉の発赤と腫脹, 歯冠の1/3以上の縁上歯石の沈着を認めた。咬合支持はEichner分類B2であった。通法による 歯科治療は困難と思われたが,家族より歯科治療を強く希望されたことから,歯科麻酔医と連携 し静脈内鎮静法下での歯科治療を計画した。計3回の静脈内鎮静法下に抜歯,歯周基本治療, CR充填,義歯新製のための印象採得および咬合採得まで行った。その後の訪問診療で義歯試 適,義歯セットを行ったが,訪問診療後に患者が不穏になるとの相談を施設職員より受け,外来 診療に変更した。義歯完成後に義歯の装着を忘れることが認められたため,施設スタッフに義歯 装着の声掛けと義歯管理を依頼した。その後問題なく義歯は使用され,常食の宅配弁当も摂取で きるようになった。現在,搬送による外来診療にて月1回の義歯調整と歯科衛生士による専門的 口腔ケアを継続し良好な口腔環境が得られている。なお,本症例の発表について患者家族から 文書による同意を得ている。
【考察】
 本症例は臼歯部咬合状態の崩壊による器質的咀嚼障害が原因で食事摂取が困難な状況で あった。早期に臼歯部の咬合回復による咀嚼機能の改善が必要であったが,歯科治療への協力 性が得られないため院内の歯科麻酔医と連携し,静脈内鎮静法による歯科治療を選択した。咀 嚼機能の改善により常食の宅配弁当が摂取できるようになった。協力性が得られない認知症患 者には,歯科麻酔医との連携による安心安全な静脈内鎮静法下の歯科治療が有効な選択肢の 一つになると考えられた。また訪問診療では患者の日常生活の場における診療になるため,診療 後の患者の反応についても確認することが必要と考えられた。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)