講演情報

[認定P-32]顎下部皮膚瘻孔を伴う進行した歯周炎と義歯不適合により食事摂取が困難となった一例

○大田 奈央1,2、森崎 重規2 (1. 社会医療法人敬和会 大分岡病院、2. 医療法人鶴岡クリニック 歯科・口腔外科)
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【緒言・目的】
 高齢化の進展に伴い,多くの高齢者が定年後も就労を継続している。一方,就労を優先するあまり,病院受診の機会を逸するケースもある。今回,定年後の就労を優先し,長期間にわたり歯周炎と義歯不適合を放置した結果,顎下部皮膚に瘻孔を形成し食事摂取が困難となった症例を経験したため報告する。
【症例および経過】
 74歳,女性。左側頬部の疼痛と食事摂取困難を主訴に近医外科病院より精査加療目的に2024年10月22日,当院紹介受診。基礎疾患に2型糖尿病があり,経口血糖降下薬を内服していた。2週間前より左頬の腫脹を自覚していたが,鎮痛薬を内服し経過をみていた。初診時,左側顎下部に直径20mm大の皮膚欠損と下顎骨の露出及び排膿を認めた。口腔内は無歯顎であったが,#37相当部の歯槽粘膜から排膿を認めた。下顎義歯を確認すると部分床義歯のクラスプに汚染した#37が歯根ごと組み込まれた状態で使用されていたことが判明し,X線検査にて#37根尖相当部に境界明瞭な透過像を認めた。血液検査では,WBC:7800,CRP:3.5,BS:128,HbA1c:6.7%と炎症マーカーは若干高値であったが糖尿病の悪化は認めなかった。慢性的な歯槽部の炎症に伴う膿瘍および皮膚瘻孔と診断し,食事摂取の改善と疼痛管理のため,下顎義歯より#37を除去し増歯・修理を行った。10月30日には顎下部の皮膚欠損部は縮小,排膿を認めなくなり,口腔内の創も閉鎖し粘膜の炎症は消退した。しかし患者は,下顎旧義歯の不適合から糖質中心の軟らかい食事へ偏食となり,仕事中にふらつきが生じるようになっていた。そこで,下顎義歯新製に着手し早期に新義歯を装着したところ,普通食摂取が可能となった。HbA1cも6.6%を維持できており,現在も定期的な口腔管理を継続している。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 口腔の炎症と義歯不適合により経口摂取が困難となった症例であったが,医科との連携により歯科への通院が開始され,早期に消炎を図り口腔機能を回復したことで,経口摂取,糖尿病コントロール,就労継続を維持できた。高齢者のQOLの維持向上のためには,医科歯科連携による,口腔も含めた健康管理が重要性であることが示唆された。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)