講演情報

[CS]小児期から取り組む口腔機能管理 ―口腔機能発達不全症の対応―

○浜野 美幸1 (1. 千葉歯科医院 院長)
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【略歴】
1986年 東京歯科大学卒業
1990年 東京歯科大学大学院(小児歯科)修了
2003年 千葉歯科医院 院長
現在に至る

2008年 日本小児歯科学会関東地方会 幹事会幹事
2022年より会長
2018年 日本小児歯科学会 理事
2020年 日本小児歯科学会 常務理事(小児保健委員会委員長)
2024年より 副理事長

日本歯科専門医機構認定小児歯科専門医指導医
東京歯科大学小児歯科学講座 非常勤講師
昭和医科大学歯学部 客員講師
昭和医科大学歯学部口腔衛生学講座 兼任講師
口腔機能は摂食や構音等に密接に関連するもので、生涯を通じて維持することでQOLを高く保ち、健康長寿に寄与するとされています。しかし、成人期・高齢期の口腔機能低下の中には、口腔機能発達不全に起因しているものもあり、小児期に口腔機能を適正に発達させ、管理することが重要です。口腔機能は、かつては生活の中で自然に身につくものでした。しかし、子供を取り巻く食習慣などの成育環境が変化し、充分に機能発達していない子どもが多く存在することが判明しました。2018年に口腔機能発達不全症の新病名ができ、対応が進められていますが、まだ不十分との見解があります。ライフコースにおいて、口腔機能を意識的に診て対応することは喫緊の課題でしょう。 口腔機能発達不全症の有病率は、口唇閉鎖不全(お口ぽかん)は、約30%、約3~5割の子供が口腔機能に関して何らかの困りごとを抱えていると考えられます。一方で、口腔機能発達不全症は自覚症状が乏しいため、主訴になりにくく、診察や健診(乳幼児健康診査、学校歯科健康診断)の機会に医療者が気付く必要があります。新たに5歳児健診が始まりましたが、健診では口腔内診察だけでなく、待機時の姿勢、表情、話し方も観察し、さらに保育士、教諭から普段や食事の様子を聞き取るなどして、口腔機能発達不全の早期発見に努めたいものです。そして事後措置ではかかりつけ歯科医につなげて、継続的な口腔機能管理が肝要です。口腔機能発達不全の評価および対応は、形態・機能・心理の3つの側面から捉えます。心理的要因は、患児だけではなく保護者にも配慮し、保護者が心の余裕を持ち、子供が食べる・話すを楽しめる雰囲気を作るサポートが大切でしょう。アメリカ小児科学会が提唱し、日本でも小児科で実践しています「予期ガイダンス」について紹介いたします。さて、機能と形態は表裏一体であり、小児期は筋・骨格系の成長発達期であるため、機能異常は形態異常を惹起します。口唇閉鎖不全、口呼吸、舌突出癖、誤った食べ方、指しゃぶりなどの口腔習癖では、口腔機能の発達は阻害されて歯列不正になります。一方で、8020達成者の多くは、よい歯列咬合形態であることが知られており、小児期の口腔機能への適切な対応は良い歯列・咬合形態に寄与できるのではないかと考えます。また、口腔機能の健全育成には、う蝕予防・治療をしっかり行い食べられる口を作ること、口を閉じて鼻呼吸すること、正しい食べ方や良い姿勢を心掛けることです。これは誤嚥や窒息の予防し、美味しく安全に食べることに繋がることからも小児期の取り組みの意義は大きいです。口腔機能発達不全症への対応は、歯科からの取り組みだけでは難しく、多角的なアプローチが必要です。保育・教育・医療・福祉関係者などと情報を共有し、協働して歯科保健教育などを通して子供の口腔機能の育成を推進することが求められています。