講演情報
[EP4-1]咀嚼能力の主観的評価と客観的評価の不一致が示す健康長寿に向けた歯科的介入の視点とは
○富永 一道1,2、齋藤 寿章1,2、清水 潤1、前田 憲邦1、井上 幸夫1、矢野 彰三2,3、安藤 雄一4 (1. 一般社団法人島根県歯科医師会、2. 島根大学地域包括ケア教育研究センター、3. 島根大学医学部臨床検査医学講座、4. 国立保健医療科学院)
【目的】
高齢者の咀嚼能力の主観的評価と客観的評価は必ずしも一致しない。しかし、その不一致が介護認定や死亡に与える影響を調査した研究はほとんど無い。本研究では、島根県後期高齢者歯科口腔健診(LEDO健診)の咀嚼能力指標(主観的・客観的評価)をもとに“組み合わせ指標”を作成し、健康寿命との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
令和元年から3年のLEDO健診受診者と医療・介護保険情報を突合した12888名(男性5700名、平均年齢78.80歳±2.94)の後方視的データを使用した。客観的咀嚼能力は、グミゼリーを15秒間努力咀嚼した後の分割数に基づき、第1四分位を噛めない(A群)、第2~4四分位を噛める(B群)とし、主観的咀嚼能力は問診票から「噛めない」(a群)と「噛める」(b群)に分類し、(Aa, Ab, Ba, Bb)の組み合わせ指標4群を作成した。基本属性や既往歴等とのクロス集計を行い、主要解析として要介護2以上または死亡の発生をアウトカムとするCox比例ハザード分析を実施した。
【結果と考察】
平均観察期間は要介護2;21.15±9.91ヶ月、死亡;21.41±9.87ヶ月だった。組み合わせ指標の内訳は、Aa:1486名、Ab:1748名、Ba:1509名、Bb:8145名。クロス集計では、Aa群でプレフレイル、BMI<18.5、高血圧、骨粗鬆症、関節症、うつ病、低栄養、多剤服用などが有意に多く、Ab群ではサルコペニア肥満、BMI≧25、糖尿病、アルツハイマー病が有意に多かった。主要解析では、既往歴の傾向スコアによる交絡調整後も要介護2以上の発生リスク(Bb群参照)はAa群でハザード比HR=1.91(95%CI:1.47-2.48)、Ab群でHR=2.30(95%CI:1.83-2.94)だった。死亡のリスクではAa群がHR=1.88(95%CI:1.38-2.56)だった。
客観的・主観的に噛めない場合(Aa群)は、介護認定と死亡の共通リスク因子であり、客観的に噛めないが主観的には噛める場合(Ab群)介護認定のリスクが高かった。背景因子から、Aa群は低栄養やサルコペニアの傾向が強く、Ab群はメタボリック症候群関連疾患の可能性が示唆された。主観的評価のみならず客観的評価の改善を前期高齢者から取り組むことは重要な介入指針と思われた。(COI開示なし)(島根大学医学部医学研究倫理委員会承認番号20220723-1)
高齢者の咀嚼能力の主観的評価と客観的評価は必ずしも一致しない。しかし、その不一致が介護認定や死亡に与える影響を調査した研究はほとんど無い。本研究では、島根県後期高齢者歯科口腔健診(LEDO健診)の咀嚼能力指標(主観的・客観的評価)をもとに“組み合わせ指標”を作成し、健康寿命との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
令和元年から3年のLEDO健診受診者と医療・介護保険情報を突合した12888名(男性5700名、平均年齢78.80歳±2.94)の後方視的データを使用した。客観的咀嚼能力は、グミゼリーを15秒間努力咀嚼した後の分割数に基づき、第1四分位を噛めない(A群)、第2~4四分位を噛める(B群)とし、主観的咀嚼能力は問診票から「噛めない」(a群)と「噛める」(b群)に分類し、(Aa, Ab, Ba, Bb)の組み合わせ指標4群を作成した。基本属性や既往歴等とのクロス集計を行い、主要解析として要介護2以上または死亡の発生をアウトカムとするCox比例ハザード分析を実施した。
【結果と考察】
平均観察期間は要介護2;21.15±9.91ヶ月、死亡;21.41±9.87ヶ月だった。組み合わせ指標の内訳は、Aa:1486名、Ab:1748名、Ba:1509名、Bb:8145名。クロス集計では、Aa群でプレフレイル、BMI<18.5、高血圧、骨粗鬆症、関節症、うつ病、低栄養、多剤服用などが有意に多く、Ab群ではサルコペニア肥満、BMI≧25、糖尿病、アルツハイマー病が有意に多かった。主要解析では、既往歴の傾向スコアによる交絡調整後も要介護2以上の発生リスク(Bb群参照)はAa群でハザード比HR=1.91(95%CI:1.47-2.48)、Ab群でHR=2.30(95%CI:1.83-2.94)だった。死亡のリスクではAa群がHR=1.88(95%CI:1.38-2.56)だった。
客観的・主観的に噛めない場合(Aa群)は、介護認定と死亡の共通リスク因子であり、客観的に噛めないが主観的には噛める場合(Ab群)介護認定のリスクが高かった。背景因子から、Aa群は低栄養やサルコペニアの傾向が強く、Ab群はメタボリック症候群関連疾患の可能性が示唆された。主観的評価のみならず客観的評価の改善を前期高齢者から取り組むことは重要な介入指針と思われた。(COI開示なし)(島根大学医学部医学研究倫理委員会承認番号20220723-1)