講演情報

[EP4-2]誤嚥のスクリーニングとしての湿性咳嗽判定の有用性について

○藤井 菜美1,3、野原 幹司2、上田 章人3、田中 信和1、尾花 綾1、濱田 理愛1、濵田 雅弘2、阪井 丘芳2 (1. 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部、2. 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学講座 、3. 医療法人藤仁会 藤立病院)
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【目的】
 咳嗽は誤嚥物を喀出するための防御機構のひとつである。咳嗽は痰などの分泌物が存在する湿性咳嗽と乾性咳嗽に分類される。湿性咳嗽は気道分泌を反映しており、喀出しきれない誤嚥物が残存する場合や慢性的な誤嚥により気道が炎症を起こしている場合に湿性咳嗽になると推測される。すなわち、誤嚥による湿性咳嗽は、肺炎リスクの高い誤嚥の指標となる可能性がある。本研究では、検査場面での誤嚥と湿性咳嗽の関連の有無を明らかにするために調査を実施した。
【方法】
 対象は主治医より嚥下評価依頼のあった入院高齢患者60名(男女比34:26平均年齢84.9 SD5.8歳)とした。①嚥下内視鏡検査および②咳嗽音の記録を実施した。①嚥下内視鏡検査では唾液誤嚥の有無、検査日まで継続的に摂取していた飲食物における誤嚥の有無を評価した。②咳テストの手技を応用し、複数回の誘発咳嗽音を記録した。記録した音声データを手動で区切り咳嗽音1つ1つのデータとした。全ての咳嗽音は30年以上の臨床経験のある呼吸器内科医が音声のみの情報をもとに湿性咳嗽と湿性でない咳嗽に分類した。本研究では咽頭貯留などによる湿性咳嗽の判定を拾わないために、湿性咳嗽が2回以上確認された場合に湿性咳嗽の患者と定義した。
【結果と考察】
 唾液誤嚥を認めたのは10/60名、飲食物において誤嚥を認めたのは11/60名であり、どちらか(もしくは両方)において誤嚥を認めたのは19/60名であった。湿性咳嗽の患者は23/60名であった。湿性咳嗽が唾液誤嚥を検出する感度は0.90、特異度は0.72であり、飲食物の誤嚥を検出する感度は0.64、特異度は0.67であった。また、湿性咳嗽が唾液もしくは飲食物の誤嚥を検出する感度は0.74、特異度は0.78であった。本調査における湿性咳嗽の唾液誤嚥の陽性尤度比は3.21陰性尤度比は0.10)であり、唾液誤嚥がある患者は唾液誤嚥がない患者に比べて3倍湿性咳嗽となりやすいという結果が示された。以上より、湿性咳嗽は唾液誤嚥のスクリーニングとして有用である可能性が示された。今後、以前に報告した咳嗽音の自動分類機器を用いて対象人数を増やし検証を継続する予定である。
(COI開示:なし)
(大阪大学歯学部附属病院倫理審査委員会承認番号:R3-E20)