講演情報

[O-2-10]薬剤関連顎骨壊死から病的骨折をきたした患者に対して保存的治療を行った1例

○武山 桂己1、森 美由紀1、斉藤 美香1、佐藤 はるか1、大鶴 洋1,2、平野 浩彦1 (1. 東京都健康長寿医療センター、2. 東京都)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【緒言・目的】
 超高齢社会の本邦において薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw, 以下MRONJ)の患者数は増加傾向にあるが,様々な理由により外科的治療が選択されない場合も少なくない。今回我々はMRONJを契機に病的骨折をきたした患者に対し,保存的治療を行った1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 患者:89歳,女性。骨粗鬆症,高血圧症,心不全,両側変形性膝関節症,右側変形性股関節症,腰部脊柱管狭窄症,腰部圧迫骨折の既往があり,X-19年からリセドロン酸Na(2.5mg)を,X-7年からはミノドロン酸(50mg)を服用している。
 現病歴:X年Y月Z-7日,右側オトガイ部の腫脹を認め,訪問医が歯性疾患を疑い歯科を受診するよう勧めた。X年Y月Z-5日,A歯科医院を受診したところ下顎歯肉癌が疑われた。X年Y月Z日,当科を紹介され受診した(第1病日)。右側下顎小臼歯相当部に骨露出があり,周囲歯肉の腫脹,排膿を認めた。またパノラマエックス線画像では右側下顎骨体部に下顎下縁に至る骨折線を認めた。悪性所見鑑別目的に生検を施行した。
 処置および経過:生検結果では肉芽組織であり,ビスホスホネート製剤の投与歴があることからMRONJステージ3と診断した。患者および患者家族は科的治療を希望せず,保存的治療の方針となった。また当院整形外科医と協議の上,ミノドロン酸の処方を中止した。第8病日,第36病日に患部の洗浄を実施した。第71病日,腐骨が下顎骨から分離し,口腔内に露出してきたため除去術を施行した。第141病日,再度腐骨の分離を認め除去術を施行した。第190病日,腐骨摘出部は歯肉で被覆された。CT画像では,骨欠損周囲の骨新生と骨折部の骨癒合を認めた。
なお,本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
【考察】
 本症例では保存的治療を選択し,顎骨壊死と病的骨折において良好な経過を得られた。ステージ3のMRONJでは外科的治療が推奨されているが,本症例のように保存的治療で対応しなければならない場合も多い。そのような症例においても,患者の全身状態や主訴,症状を見極め,保存的治療の範囲の中で適切に対応することが重要であると考える。

(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)