講演情報

[SY1-2]診療参加型臨床実習マニュアル「高齢者歯科医療における生体情報モニタリングマニュアル(仮)」

○大渡 凡人1 (1. 公立大学法人 九州歯科大学 特任教授)
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【略歴】
1983年 九州歯科大学卒業
1987年 東京医科歯科大学 大学院歯学研究科 歯科麻酔学 修了
1987年 新潟大学 歯学部 第1口腔外科学講座 助手(全身麻酔担当)
1989年 東京医科歯科大学 歯学部 歯科麻酔学講座 助手
2000年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔老化制御学 講師
2006年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔老化制御学 助教授
2007年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 准教授
2016年 九州歯科大学 口腔保健・健康長寿推進センター 教授
2019年 九州歯科大学 リスクマネジメント歯科学分野 教授
2023年 九州歯科大学 特任教授(現職)

【主な資格】
日本老年歯科医学会 認定医
日本歯科麻酔学会 専門医・認定医
日本障害者歯科学会 認定医
有病率が高い高齢者の歯科医療では,若年者に比較して全身的偶発症が発生しやすい.演者の調査では,有病高齢者の抜歯において,約1割に全身的偶発症が発生し,その9割以上を著しい血圧上昇や不整脈など,循環器系が占めていた.その主要な背景因子は,加齢による予備力低下と,全身疾患,なかでも循環器疾患の併存率上昇である.いうまでもなく,安全は医療における最優先事項である.学生教育において医療安全に関する教育は必須であるが,高齢者歯科学における優先順位は特に高いといえる.
全身的偶発症のほとんどは,バイタルサインの異常値が先行する.これらを早期に発生し,適切に対応すれば,重篤な結果の回避可能性を高めることができる.特に,循環器系の全身的偶発症は,短時間で致死的となりうるため,バイタルサイン異常値の早期発見は安全の「鍵」といえる.そして,この鍵を実現する手段が,「生体情報モニタリング」である.生体情報モニタリングの正しい実施,得られるバイタルサインの正確な理解と診断,適切な対応,は医療安全の実現における基本である.そして,これらが可能な歯科医療従事者の育成は,高齢者歯科学の卒前教育において実現すべき必須事項であろう.
歯学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)においても,学修目標として「バイタルサインの意義とそのモニタリングの方法を理解している」,「バイタルサイン(中略)を測定し,評価できる」がある.しかし,演者の知るかぎり,その教育のほとんどは,歯科麻酔学で行われており,高齢者歯科学に占める割合は低い.また,治療前後のバイタルサイン測定は行われるようになったが,生体情報モニタリングを実施している施設は依然として少ない.このように,高齢者歯科医療における生体情報モニタリングの必要性に関する理解度は低いのが現状である.しかし,今後,増え続ける重篤な全身疾患をもつ高齢者の歯科医療において,その重要性が高まることは明らかであり,これらの問題を解決できる実効性の高い教育は,高齢者歯科学において早急に実現すべき課題であるといえよう.
そこで,これらの課題を解決し,超高齢社会に正しく適応できる人材を育成するため,日本老年歯科医学会は,診療参加型臨床実習マニュアル「高齢者歯科医療における生体情報モニタリング(仮)」を作成することとした.その目的は,「安全な高齢者歯科医療実現に必要な,生体情報モニタリングの知識,技能,基本的対応を修得すること」とし,全国の歯学部,歯科大学の卒前教育で共通して使用できるツールとなること,を目指した.一方,生体情報モニタリングに関する教育は,関連するすべての領域で共有される必要がある.そこで,本マニュアルは関連学会と共同で作成することとなった.現時点において,本マニュアルは作成過程にある.このため,講演ではその概要に関連事項を加えて解説する予定である.