講演情報

[優秀P衛生-1]終末期口底がんの認知症患者に対し,緩和ケアとして口腔衛生管理を実施した症例

○板木 咲子1、金久 弥生2、山脇 加奈子1、田地 豪3、吉川 峰加4 (1. 医療法人ピーアイエー ナカムラ病院、2. 明海大学保健医療学部口腔保健学科、3. 広島大学大学院医系科学研究科 口腔生物工学研究室、4. 広島大学大学院医系科学研究科 先端歯科補綴学研究室)
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【緒言】
 口腔がんは時に出血や疼痛などの症状を伴うが,終末期ではQOLに配慮した緩和ケアとしての口腔衛生管理が必要となる.特に,認知症を伴う症例では,疾患理解の低下やがん性疼痛の識別が困難である.疼痛は周辺症状に影響を与えることが報告されており,疼痛管理が重要とされる.本症例は,終末期口底がんの認知症患者に対して他職種と連携し出血リスクの軽減,周辺症状への対応および疼痛管理を行いながら口腔衛生管理を実施した報告である.本報告は,代諾者から文書による同意を得ている.
【症例および経過】
 86歳男性,主病名は右側口底がん(T4aN2cM0, Stage IVA).基礎疾患はアルツハイマー型認知症,糖尿病で,既往歴は肝細胞癌,膀胱癌,閉塞性動脈硬化症等があった.抗血栓薬,糖尿病治療薬,抗不安薬等を内服していた.X年5月,他院口腔外科にて上記病名と診断され,放射線治療(50Gy)が終了していた.その後,徘徊などの周辺症状が著しいことから,同年7月に認知症病棟のある当院へ入院した.患者は経口摂取の継続を強く希望していた.入院翌日に右側口腔底から出血を認め,歯科医師による圧迫止血および止血法の指導が病棟へ行われ,医科への抗血栓薬調整のコンサルトも行われた.歯科衛生士は出血や疼痛に留意しながら口腔衛生管理を週3回実施し,病棟に清掃方法を指導した.入院中に突発的な出血を認める日があったが速やかに止血し,出血多量となる事はなかった.
 周辺症状は帰宅願望,徘徊,暴言,興奮,介護抵抗を認め,抗精神病薬が処方されていた.口腔衛生管理は精神安定時に実施するよう病棟と情報を共有し,拡大していく腫瘍部分に注意しながら慎重に管理を継続した.また,疼痛部位などの痛みの評価を主治医へ定期的に報告した.同年10月には頸部リンパ節転移増大を認め,11月からは非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs)に加えてオピオイド鎮痛薬の使用が開始された.徐々に拒食傾向になったが疼痛による周辺症状の悪化はみられず,逝去6日前まで経口摂取を継続する事ができた.
【考察】
 終末期口底がんの認知症患者において,他職種と連携し出血リスクの軽減,周辺症状への対応,疼痛管理を行いながら口腔衛生管理を実施したことで,緩和ケアをサポートし経口摂取の維持に貢献できたと考えられた.
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)