講演情報
[優秀P衛生-2]生物心理社会モデルを活用した食支援により栄養改善から家族旅行まで多階層への良好な影響をもたらした症例
○大曽根 歩愛1、三輪 俊太1,2、石田 健2,3 (1. 医療法人社団恵眞会 Ihana歯科岐阜、2. 大阪大学大学院歯学研究科有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座、3. JAみなみ信州歯科診療所)
【緒言・目的】
歯科訪問診療では,口腔の問題だけでなく心理的,社会的要因への対応も求められる。エンゲルが提唱した生物心理社会モデル(BPSモデル)は,健康や病気を生物学的,心理的,社会的要因の相互作用として捉えるものである。さらにこのモデルは,個人を分子や細胞などのミクロな階層から地域や文化といったマクロな階層まで多層的に捉えることで,問題点や解決策を見つけやすくなる。今回,歯科衛生士がBPSモデルを活用した食支援を行うことで,栄養改善から家族旅行まで多階層への良好な影響をもたらした症例を報告する。
【症例および経過】
80歳女性。義歯の製作を希望し歯科訪問診療を依頼された。生物学的要因として,義歯紛失による咀嚼障害と褥瘡(d2)による歩行困難があり,既往歴にはⅣ期肺腺癌,多発骨転移などを認めた。心理的要因として食事がおいしくない,肉が食べられないとの不満があり,社会的要因として独居や在宅訪問可能な管理栄養士の不在が挙げられた。患者との対話を通じ,誕生日にステーキを食べたいという希望が明らかになったが,課題は複数の階層に存在した。個人の階層では,義歯では肉は食べられないという固定観念があり,家族,地域の階層では独居や管理栄養士の不在による食支援の不足が挙げられた。これらの課題に対応するため,地域,二者関係の階層で介入を行った。地域の階層では地域病院の管理栄養士と連携し,柔らかいステーキを在宅で提供する調理方法を模索した。二者関係の階層では、歯科衛生士が調理した真空パックのステーキを誕生日に提供した。その結果,個人の階層では,患者がステーキを食べ,美味しいと喜びを感じる機会を得ることができ,外食で肉料理を楽しむようになった。たんぱく質を積極的に摂取するようになり,栄養バランスが改善し,褥瘡は治癒(d0),家族と旅行に行くことができた。
なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
本症例では食事に関する問題に対し,地域や二者関係の階層に介入を行うことで,個人の階層で心理的充足を得るとともに,家族や地域の上位階層では旅行,臓器や細胞の下位階層では栄養改善や褥瘡治癒という良好な影響がみられた。歯科訪問診療において,歯科衛生士が口腔だけでなく心理的社会的要因に対して包括的な介入を行う重要性を再認識した。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)
歯科訪問診療では,口腔の問題だけでなく心理的,社会的要因への対応も求められる。エンゲルが提唱した生物心理社会モデル(BPSモデル)は,健康や病気を生物学的,心理的,社会的要因の相互作用として捉えるものである。さらにこのモデルは,個人を分子や細胞などのミクロな階層から地域や文化といったマクロな階層まで多層的に捉えることで,問題点や解決策を見つけやすくなる。今回,歯科衛生士がBPSモデルを活用した食支援を行うことで,栄養改善から家族旅行まで多階層への良好な影響をもたらした症例を報告する。
【症例および経過】
80歳女性。義歯の製作を希望し歯科訪問診療を依頼された。生物学的要因として,義歯紛失による咀嚼障害と褥瘡(d2)による歩行困難があり,既往歴にはⅣ期肺腺癌,多発骨転移などを認めた。心理的要因として食事がおいしくない,肉が食べられないとの不満があり,社会的要因として独居や在宅訪問可能な管理栄養士の不在が挙げられた。患者との対話を通じ,誕生日にステーキを食べたいという希望が明らかになったが,課題は複数の階層に存在した。個人の階層では,義歯では肉は食べられないという固定観念があり,家族,地域の階層では独居や管理栄養士の不在による食支援の不足が挙げられた。これらの課題に対応するため,地域,二者関係の階層で介入を行った。地域の階層では地域病院の管理栄養士と連携し,柔らかいステーキを在宅で提供する調理方法を模索した。二者関係の階層では、歯科衛生士が調理した真空パックのステーキを誕生日に提供した。その結果,個人の階層では,患者がステーキを食べ,美味しいと喜びを感じる機会を得ることができ,外食で肉料理を楽しむようになった。たんぱく質を積極的に摂取するようになり,栄養バランスが改善し,褥瘡は治癒(d0),家族と旅行に行くことができた。
なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
本症例では食事に関する問題に対し,地域や二者関係の階層に介入を行うことで,個人の階層で心理的充足を得るとともに,家族や地域の上位階層では旅行,臓器や細胞の下位階層では栄養改善や褥瘡治癒という良好な影響がみられた。歯科訪問診療において,歯科衛生士が口腔だけでなく心理的社会的要因に対して包括的な介入を行う重要性を再認識した。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)