講演情報
[優秀P衛生-4]日本語を母語としない口腔機能低下症患者へイラスト等を用いた口腔機能管理により口腔機能向上に至った症例
○堀 ひとみ1、大沢 由茉1、竜 正大2、上田 貴之2 (1. 東京歯科大学水道橋病院歯科衛生士部、2. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)
【緒言・目的】
2024年の日本における在留外国人数は過去最高を更新しており,歯科医療においても多様な背景を持つ患者への対応が必要である。今回,日本語を母語としない口腔機能低下症患者に対し,指導方法を工夫した口腔機能管理により機能向上に至った症例を経験したため報告する。
【症例および経過】
63歳の女性。食事時の下顎義歯床下粘膜の疼痛と咀嚼困難を主訴に来院した。患者は在留外国人で,片言の日本語は話せるが,日本語の読み書きは不可能であった。現有義歯は8年前に日本で製作したが,1年前から咀嚼困難を自覚しているとのことであった。歯科医師が口腔機能低下を疑い,口腔機能精密検査を行ったところ,口腔乾燥,口腔不潔,咬合力低下,舌口唇運動機能低下,低舌圧,咀嚼能力低下の6項目が該当し,口腔機能低下症と診断された。義⻭不適合のため歯科医師が暫間リライン後に新義歯の製作を行うとともに,歯科衛生士が検査方法や訓練についてイラストを用いて説明を行う等,工夫した口腔機能管理を行うこととした。イラストと顎模型を用いて簡単で始めやすい舌ブラシによる口腔清掃と舌抵抗訓練,ローマ字で発音を表記した発音訓練,硬めに調理した食事の摂取を指導した。
義歯の暫間リライン後の2か月後の再評価では訓練が習慣化し,口腔不潔と舌圧が改善した。イラストや顎模型を用いて説明し,実際に実施してもらいながら器具を用いた舌抵抗訓練と唾液腺マッサージを指導した。
5か月後の再評価では引き続き4項目が該当した。舌口唇運動機能は患者の母語の早口言葉を用いた発音訓練を指導し,親しみやすい訓練を取り入れた。
新義歯装着後の8か月後の再評価では,舌口唇運動機能低下が改善し,3項目該当となり,咀嚼機能は基準値近くまで改善した。引き続き訓練の継続とともに噛み応えのある食物の摂取を指導し,咬合力と咀嚼機能の向上を目標として口腔機能管理を継続している。
【考察】
本症例は患者が日本語を母語としなかったため,イラストや顎模型を用いて指導を行う等,患者背景に寄り添って工夫した口腔機能管理を行ったことにより,効果的に口腔機能が向上したと考えられる。今後は更なる機能向上を目指し,義歯の調整や筋力トレーニングに加え,患者の母語を反映した発音訓練などの口腔機能管理を行っていく予定である。
本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)
2024年の日本における在留外国人数は過去最高を更新しており,歯科医療においても多様な背景を持つ患者への対応が必要である。今回,日本語を母語としない口腔機能低下症患者に対し,指導方法を工夫した口腔機能管理により機能向上に至った症例を経験したため報告する。
【症例および経過】
63歳の女性。食事時の下顎義歯床下粘膜の疼痛と咀嚼困難を主訴に来院した。患者は在留外国人で,片言の日本語は話せるが,日本語の読み書きは不可能であった。現有義歯は8年前に日本で製作したが,1年前から咀嚼困難を自覚しているとのことであった。歯科医師が口腔機能低下を疑い,口腔機能精密検査を行ったところ,口腔乾燥,口腔不潔,咬合力低下,舌口唇運動機能低下,低舌圧,咀嚼能力低下の6項目が該当し,口腔機能低下症と診断された。義⻭不適合のため歯科医師が暫間リライン後に新義歯の製作を行うとともに,歯科衛生士が検査方法や訓練についてイラストを用いて説明を行う等,工夫した口腔機能管理を行うこととした。イラストと顎模型を用いて簡単で始めやすい舌ブラシによる口腔清掃と舌抵抗訓練,ローマ字で発音を表記した発音訓練,硬めに調理した食事の摂取を指導した。
義歯の暫間リライン後の2か月後の再評価では訓練が習慣化し,口腔不潔と舌圧が改善した。イラストや顎模型を用いて説明し,実際に実施してもらいながら器具を用いた舌抵抗訓練と唾液腺マッサージを指導した。
5か月後の再評価では引き続き4項目が該当した。舌口唇運動機能は患者の母語の早口言葉を用いた発音訓練を指導し,親しみやすい訓練を取り入れた。
新義歯装着後の8か月後の再評価では,舌口唇運動機能低下が改善し,3項目該当となり,咀嚼機能は基準値近くまで改善した。引き続き訓練の継続とともに噛み応えのある食物の摂取を指導し,咬合力と咀嚼機能の向上を目標として口腔機能管理を継続している。
【考察】
本症例は患者が日本語を母語としなかったため,イラストや顎模型を用いて指導を行う等,患者背景に寄り添って工夫した口腔機能管理を行ったことにより,効果的に口腔機能が向上したと考えられる。今後は更なる機能向上を目指し,義歯の調整や筋力トレーニングに加え,患者の母語を反映した発音訓練などの口腔機能管理を行っていく予定である。
本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)