講演情報
[優秀P一般-1]上位中枢による嚥下反射調節機構の加齢変化~成人と高齢者の嚥下衝動の比較~
○濵田 雅弘1、田中 信和2、野原 幹司1、藤井 菜美2、尾花 綾2、阪井 丘芳1 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学講座、2. 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部)
【目的】
高齢者では嚥下反射の惹起遅延が生じており,その原因については末梢の反射弓に着目されることが多い。しかし,嚥下は末梢だけでなく,上位中枢が関わることも明らかになっている。例えば,上位中枢の働きにより,嚥下を随意的に行うことや抑制することが可能であり,この嚥下反射の調節に関わる「飲み込みたい」感覚については不明な点が多い。そこで,我々はこの感覚を嚥下衝動と定義し,本学会にて成人を対象とした研究から,咽頭への水の注入量(刺激量)を嚥下衝動の強さとして捉えており,定量評価が可能であると報告した。本研究では嚥下反射の惹起遅延が生じていると報告のある高齢者の嚥下衝動を成人と比較することにより評価した。
【方法】
対象は成人19名(男:女=11:8名,年齢26.4,SD=4.7歳),高齢者18名(男:女=13:5名,年齢75.4,SD=6.4歳)とした。被験者に内視鏡およびチューブを鼻腔から中咽頭まで挿入し,シリンジポンプを用いて梨状窩に溜まるようにチューブから規定量(0.25~2ml)の水を注入した。この時,嚥下を抑制させながら咽頭に水が溜まっている時の嚥下衝動の強さを修正Borgスケールを用いて回答させた。この方法を全ての規定量で行い,咽頭への注入量および修正Borgスケールの点数を対数変換したグラフの回帰直線および決定係数R^2を算出した。
【結果と考察】
回帰直線は成人群y=0.74x+0.73(R^2=0.99),高齢者群y=0.37x+0.52(R^2=0.80)であり,両群ともR^2が高値であったため,刺激量に応じた嚥下衝動の強さを感じていると示された。また,高齢者群では成人群と比較した回帰直線の傾きは小さく(p<0.05),嚥下衝動が強くなりにくいことが明らかになった。さらに,回帰直線の得られた各被験者のうち,成人1/17人,高齢者8/15人でR^2<0.5を示し,R^2<0.5の割合は高齢者群が成人群よりも有意に多かった(p<0.01)。このことから,ほとんどの成人では刺激量に対する嚥下衝動の強さを自覚できるが,約半数の高齢者は自覚できていないことが示された。これらのことにより,高齢者では嚥下反射の惹起遅延が生じている可能性が示唆された。
(COI開示:なし)
(大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会,承認番号:R4-E15)
高齢者では嚥下反射の惹起遅延が生じており,その原因については末梢の反射弓に着目されることが多い。しかし,嚥下は末梢だけでなく,上位中枢が関わることも明らかになっている。例えば,上位中枢の働きにより,嚥下を随意的に行うことや抑制することが可能であり,この嚥下反射の調節に関わる「飲み込みたい」感覚については不明な点が多い。そこで,我々はこの感覚を嚥下衝動と定義し,本学会にて成人を対象とした研究から,咽頭への水の注入量(刺激量)を嚥下衝動の強さとして捉えており,定量評価が可能であると報告した。本研究では嚥下反射の惹起遅延が生じていると報告のある高齢者の嚥下衝動を成人と比較することにより評価した。
【方法】
対象は成人19名(男:女=11:8名,年齢26.4,SD=4.7歳),高齢者18名(男:女=13:5名,年齢75.4,SD=6.4歳)とした。被験者に内視鏡およびチューブを鼻腔から中咽頭まで挿入し,シリンジポンプを用いて梨状窩に溜まるようにチューブから規定量(0.25~2ml)の水を注入した。この時,嚥下を抑制させながら咽頭に水が溜まっている時の嚥下衝動の強さを修正Borgスケールを用いて回答させた。この方法を全ての規定量で行い,咽頭への注入量および修正Borgスケールの点数を対数変換したグラフの回帰直線および決定係数R^2を算出した。
【結果と考察】
回帰直線は成人群y=0.74x+0.73(R^2=0.99),高齢者群y=0.37x+0.52(R^2=0.80)であり,両群ともR^2が高値であったため,刺激量に応じた嚥下衝動の強さを感じていると示された。また,高齢者群では成人群と比較した回帰直線の傾きは小さく(p<0.05),嚥下衝動が強くなりにくいことが明らかになった。さらに,回帰直線の得られた各被験者のうち,成人1/17人,高齢者8/15人でR^2<0.5を示し,R^2<0.5の割合は高齢者群が成人群よりも有意に多かった(p<0.01)。このことから,ほとんどの成人では刺激量に対する嚥下衝動の強さを自覚できるが,約半数の高齢者は自覚できていないことが示された。これらのことにより,高齢者では嚥下反射の惹起遅延が生じている可能性が示唆された。
(COI開示:なし)
(大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会,承認番号:R4-E15)