講演情報

[LS8]ライフコースアプローチからみた口腔機能管理の重要性

○平野 浩彦1 (1. 東京都健康長寿医療センター 病院歯科口腔外科部長、研究所研究部長)
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【略歴】
日本大学松戸歯学部卒業 医学博士
平成2年 東京都老人医療センター 歯科口腔外科 研修医
平成3年 国立東京第二病院 口腔外科 研修医
平成4年 東京都老人医療センター 歯科口腔外科主事
平成14年 同センター医長(東京都老人医療センター・東京都老人総合研究所の組織編成により東京都健康長寿医療センターへ名称変更)
平成21年 東京都健康長寿医療センター研究所 専門副部長
平成28年 同センター病院 歯科口腔外科 部長
平成31年 同センター研究所 口腔保健と栄養研究テーマ研究部長(兼任)
令和4年 研究所自立促進と精神保健研究チームチームリーダー
令和6年から現職
2018年度診療報酬改定では、「口腔機能発達不全症」と「口腔機能低下症」が同時に保険収載され、口腔機能管理が歯科医療の重要な柱として位置づけられた。これは、乳幼児期から高齢期に至るまで、生涯を通じた口腔機能支援の必要性が制度的にも認識されたことを意味している。言うまでもなく、口腔機能発達不全症は18歳で突然消失するわけではなく、また口腔機能低下症も高齢期から急激に発症するものではない。小児期に獲得される咀嚼、嚥下、構音、口唇閉鎖などの機能は、その後の生活習慣や食行動、疾病、社会環境の影響を受けながら変化し、成人期を経て高齢期の口腔機能低下へと連続的に変化していく。こうした視点は、近年の骨粗鬆症・サルコペニア研究とも共通する。骨粗鬆症は高齢者に多くみられるcommon diseaseであるが、その予防では、高齢期になってから介入するだけでなく、若年期に最大骨量を獲得することが重要とされている。同様にサルコペニアにおいても、青年期から壮年期にかけての運動習慣や栄養状態が、高齢期の筋量や筋力に大きく影響することが指摘されている。すなわち、高齢期の機能低下は、その時点のみの問題ではなく、若年期からの生活習慣や健康行動の積み重ねの結果として理解されるべきものである。口腔機能においても同様に、高齢期のオーラルフレイルや口腔機能低下は、若年期からの食習慣、咀嚼習慣、栄養状態、身体活動などの影響を受けながら形成される可能性があり、「最大骨量(peak bone mass)」と同様の視点として、「最大口腔機能」ともいうべき概念に基づいた、生涯を通じた機能管理が求められるのではないだろうか。近年、厚生労働省が示した「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」においても、「ライフコースに沿った歯科口腔保健」が中核概念として位置づけられている。そこでは、乳幼児期・学齢期における口腔機能の獲得、成人期における維持、高齢期における低下予防を切れ目なく支援することが明記されている。また、口腔保健分野と栄養・食生活分野との協働の重要性も示され、「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」を共通アウトカムとして、多職種が連携しながらライフステージごとの支援を行う必要性が指摘されている。小児期では食育や咀嚼機能の獲得支援、成人期では生活習慣病予防と歯周病管理、高齢期では低栄養やフレイル予防と口腔機能管理が相互に関連しており、「よく噛める口腔」と「適切に食べる支援」を統合して考える視点が不可欠である。高齢期の口腔機能管理には、高齢者の「低下への対応」にとどまらず、小児期から成人期を含めたシームレスな口腔機能管理体制の構築が求められる。本講演では、オーラルフレイル、口腔機能低下症に関する最新知見を中心に政策動向を概説するとともに、骨粗鬆症・サルコペニア研究との共通性も踏まえながら、老年歯科医学の視点からライフコースアプローチに基づく口腔機能管理の重要性について考察する。