講演情報

[SL1]「老化に挑む」最新研究 ― 口腔から加齢をコントロールする未来へ

○阪井 丘芳1 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学講座)
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【略歴】
1991年徳島大学歯学部卒業後、大阪大学歯学部附属病院第一口腔外科研修医として臨床を開始。1994年大阪警察病院歯科口腔外科医員を経て、2000年より米国国立衛生研究所(NIH)客員博士研究員、2001年日本学術振興会海外特別研究員として唾液腺の遺伝子解析や再生医学に関する研究を推進した。2004年大阪大学歯学部附属病院口腔外科(制御系)講師、2006年NIH客員教授を歴任し、同年大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学教室教授に就任。併せて大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部部長を務め、2022年より大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)教授を兼任。現在大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学講座(2023年講座名称変更)教授を務める。日本抗加齢医学会副理事長、日本口腔科学会常務理事、日本唾液腺学会理事長を務める。2027年6月日本抗加齢医学会総会大会長として学術集会を主催予定。
「不老長寿」は古来より人類の願いとされていましたが、現代のアンチエイジング医学は“健康寿命を延ばす”ことを現実的な目標として進化しています。世界では、筋力・認知機能・免疫力の回復をめざす研究が加速し、老化細胞の除去、NMN を含む代謝改善、細胞の再活性化など多様なアプローチが注目されています。これらの取り組みは、平均寿命と健康寿命の差を縮め、寝たきり期間の短縮や介護負担の軽減といった超高齢社会の課題解決に寄与する可能性を秘めています。口腔領域においても、加齢に伴う機能低下は全身の健康と密接に関連しています。中でもドライマウスは自浄作用の障害を通じて、口腔カンジダ症、齲蝕、歯周病、さらには誤嚥性肺炎の重要なリスク因子となります。唾液分泌低下の背景には、加齢、全身疾患、薬剤性副作用、心理的ストレスなど多因子が関与しています。2024 年に日本老年薬学会が公表した「日本版抗コリン薬リスクスケール」は、高血圧、睡眠障害、泌尿器疾患に関連する薬剤が口腔乾燥、便秘、認知機能低下と関連することを明確に示し、薬剤起因性ドライマウス対策の重要性を再認識させました。一方、COVID‑19 流行期に注目された要時生成型亜塩素酸イオン水溶液「MA‑T®」は、通常は水に近い安定状態を保ちながら、細菌・ウイルス・有機物の存在下で選択的に反応し除菌・消臭を行う革新的技術として注目されています。反応後は速やかに水へ戻る高い安全性を有し、医療・介護現場の衛生管理に新たな選択肢を提供してきました。この MA‑T®技術を応用した口腔ケアジェルは、優れた清掃性によるバイオフィルム除去補助、除菌・消臭作用による口腔環境改善、湿潤性による粘膜保護を同時に実現しています。唾液分泌が低下した高齢者や要介護者、周術期患者の口腔管理において有用性が期待され、医療介護現場や動物医療領域でも活用が広がってきています。MA‑T®はその社会的価値が評価され内閣総理大臣賞を受賞し、医療・介護・動物医療に加え、東京オリンピック・パラリンピックや大阪・関西万博といった国際イベントでも衛生管理技術として採用されました。これらの実績は、MA‑T®が安全性・即効性・環境負荷の低さを兼ね備えた次世代型技術であることを示しています。本講演では、老化研究の最新動向と口腔からの加齢制御の可能性、さらに MA‑T®技術の科学的背景と癌治療や褥瘡ケアを含めた臨床応用、国際的な活用事例を紹介し、未来の口腔ケアがどのように変革していくのかを展望したいと思います。