講演情報

[課題2-2]認知症と咀嚼能力の交互作用が高齢者の自立喪失に与える影響
― 新規認知症発症研究の継続解析 ―

○富永 一道1,2、矢野 彰三2、齋藤 寿章1,2、清水 潤1、前田 憲邦1、井上 幸夫1、安藤 雄一3 (1. 一般社団法人島根県歯科医師会、2. 島根大学地域包括ケア教育研究センター(CoHRE)、3. 国立保健医療科学院)
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【目的】
高齢者において認知症は健康寿命を規定する主要な要因である。先行研究で、島根県後期高齢者歯科口腔健診(LEDO健診)データを用い、新規認知症発症が歯数や客観的咀嚼能力、嚥下機能など複数の口腔健康指標と関連することを報告した。本研究では、咀嚼機能に着目し、認知症既往の有無によって咀嚼能力が自立喪失に与える影響の違いを検討した。
【方法】
LEDO健診受診者22,747名を対象とし、要介護2以上または死亡による自立喪失をアウトカムとした。性、年齢、BMIで調整したCox比例ハザードモデルにより、歯数、主観的・客観的咀嚼能力と認知症既往との交互作用を解析した。次に、客観的咀嚼能力3分位と認知症既往の有無を組み合わせた6群を作成し、自立喪失との関連を多変量解析(IPW交絡調整)で検討した。加えて、追跡開始後24か月以内のイベントを除外した感度分析も実施した。
【結果】
歯数は自立喪失リスクと有意に関連した(HR 0.82、95%CI 0.77–0.86)が、認知症との交互作用は認められなかった(p=0.600)。主観的咀嚼能力は自立喪失リスクの上昇と関連した(HR 1.26、95%CI 1.16–1.37)が、この関連は認知症を有する高齢者では有意に減弱した(交互作用HR 0.80、p=0.036)。一方、客観的咀嚼能力は自立喪失リスクの低下と強く関連し(HR 0.71、95%CI 0.68–0.75)、認知症との交互作用も有意であった(HR 0.86、p=0.035)。組み合わせ指標による解析では、認知症既往の有無にかかわらず咀嚼能力が低い群で自立喪失リスクが高く、特に認知症既往かつ低咀嚼群では高咀嚼群と比べて有意に高リスクであった(IPWモデルHR 2.15、95%CI 1.64–2.83)。これらの結果は感度分析においても一貫して認められた。
【結論】
歯数は認知症の有無に依存しない基盤的な口腔健康指標である一方、主観的咀嚼能力の予測能は認知症により低下する可能性が示唆された。客観的に評価された咀嚼能力は、認知症を有する高齢者においても健康寿命と強く関連しており、先行する新規認知症発症研究の知見と合わせると、認知症診断前後において評価・介入可能な重要な口腔機能指標であると考えられる。
(COI開示:なし)
(島根大学医学部倫理委員会承認番号20220723-1)