講演情報

[SY3-1]高齢者の人生の最終段階における「食」に関する意思決定~尊厳と快適さを支える多職種連携~

○寺中 智1 (1. あやせほりきり中央歯科口腔機能クリニック)
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【略歴】
2003年4月: 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野
2007年3月: 同大学院修了 歯学博士
2007年4月: 同大学歯学部付属病院 スペシャルケア外来 医員
2010年4月: 同大学院 特任助教 摂食リハビリテーション外来(両兼任)
2013年12月: 足利赤十字病院リハビリテーション科
2020年2月: 足利赤十字病院リハビリテーション科 口腔治療室長
2024年7月: 足利赤十字病院リハビリテーション科 副部長
2025年4月:あやせほりきり中央歯科口腔機能クリニック 院長

【現職】
日本老年歯科医学会専門医・指導医・代議員・理事
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士・評議員
日本プライマリ・ケア連合学会(高齢者医療・在宅医療委員会、生涯学習委員会)
東京科学大学大学院 高齢者歯科学分野 非常勤講師
日本ACLS協会BLSインストラクター
高齢者の人生の最終段階において、「食」は単なる栄養補給の手段を超え、本人の人生観・価値観など映し出す営みであり、本人の尊厳とQOL(生活の質)に直結する極めて重要な課題である。日本老年医学会が発表した「高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025」では、人生の最終段階を、医学的な不可逆性と「本人が人生の物語の最終章を生きている」という人生観の二重の視点から定義している。本シンポジウムでは、この新たな指針に基づき、老年歯科医と総合診療医にそれぞれご登壇頂き、食に関する意思決定プロセスのあり方を検討する。
加齢に伴いBMIや食事摂取量が低下するプロセスは、死に至る自然なトラジェクトリー(軌跡)の一部であり、無理な栄養管理は逆に本人の苦痛を増大させる可能性がある。立場表明2025は、高齢者の権利として「最善の医療およびケア」を受けることと、本人の意思・価値観が尊重されることを両立させることを目標に掲げる。 食に関する場面では、誤嚥性肺炎や窒息リスクを背景に経口摂取制限が検討される一方、「口から食べること」が生きる実感や喜びをもたらすという心理・社会的価値がしばしば強調される。特に認知症末期等において経口摂取が困難になった際、生存期間の延長よりも「食べる楽しみ」や「心地よさ」を最優先する「コンフォート・フィーディング・オンリー(CFO)」というアプローチは、家族やケアチームが経管栄養の導入に迷う際の重要な選択肢となる。
意思決定の核心は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を通じた共同意思決定(SDM)にある。本人の言語的な意思表明が困難な場合でも、表情やしぐさから読み取れる非言語的な「意向」を最大限尊重し、快・不快のサインを見逃さない姿勢が求められる。また、家族等に対しては「代理決定」の重責を強いるのではなく、本人の人生観に基づき「本人ならどう望むか」を推測し、寄り添う「伴走者」としての役割を支援することが不可欠である。
臨床現場で治療効果の判断に迷いが生じる場合は、タイムリミテッド・トライアル(TLT)を活用し、一定期間の試行後に本人の尊厳やQOLの観点から継続か終了かを再評価する手法も有効である。人工的水分・栄養補給(AHN)の差し控えや終了は、緩和ケアの視点に基づき、本人の人権と尊厳を擁護するための正当な医療的選択肢として位置づけられる。さらに、急性期医療におけるサルコペニア嚥下障害の問題を人権問題として捉え直し、回復の可能性と緩和的配慮を両立させる視点も重要である。
本シンポジウムを通して、総合診療医や歯科医師を含む多職種チームが連携し、医学的エビデンスと個人のナラティブ(物語)を統合することで、高齢者が最期まで「その人らしく」味わい、生き切ることを支える支援のあり方について議論を深めたい。