講演情報

[SY3-2]総合診療医からみた「食」の意思決定 ― マルチモビディティと臨床倫理の交差点で

○大浦 誠1 (1. 南砺市民病院内科・総合診療科)
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【略歴】
2009年4月 南砺市民病院 初期研修開始
2011年3月 同 初期研修修了
2011年4月 同「とやまNANTO家庭医養成プログラム」後期研修開始
2014年3月 同 後期研修修了
2015年4月 同 内科医長・総合診療科医長
2021年4月 同 内科副部長・総合診療科副部長 兼 総合診療医養成プログラム統括責任者
2022年4月  同 家庭医療専門研修プログラム責任者
2025年4月 同 内科医長・総合診療科医長
2026年4月 同 内科副部長・総合診療科部長 現在に至る

【現職】
日本プライマリ・ケア連合学会 理事/日本内科学会 多疾患併存マネジメントWG リーダー/臨床倫理認定士(上級
高齢者の人生の最終段階における「食」の意思決定は、嚥下機能、心不全、腎不全、サルコペニア、認知症、介護環境、口腔状態など、複数のドメインが平均して同時に重なる場面で行われる。単一疾患モデルでは判断できず、多疾患併存(マルチモビディティ、以下マルモ)の視点が不可欠である。実際、JAGES 2022の最新報告では、心疾患のみを有する高齢者の口腔フレイル有病率36.2%に対し、心疾患+マルモ群では44.3%(P=0.016)と有意に高かった。食は、全身マルモの交差点にある。

意思決定の枠組みとしては、日本老年医学会「高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025」が示す「最善のケア=緩和ケア」と「プロセスとしての意思決定」が中核となる。AHN(人工的水分・栄養補給)導入ガイドライン(2012)は、選択肢の目的を「生命維持」と「快適さ」の二つに明示化することを求めており、立場表明2025と矛盾なく接続される。

これらの理念を、筆者は「マルモのトライアングル」(問題リスト/バランスモデル/四則演算)として日常臨床に翻訳して用いている。家族の代理意思決定を支える際には、「決める人」ではなく「物語を聴く人」として迎える構えを大切にしている。

筆者はまた、2021年より「南砺マルモカンファレンス」を主宰している。一人の患者さんを巡り、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・リハ職・介護職・心理職、そして歯科医師・歯科衛生士まで、これまでに30以上の職種が集い、ケースを多面的に語り合ってきた。月1回のオンライン開催で、2026年5月時点で55回を数える。結論を急がず、問題を立体的に見えるようにすることを目的としている。食の意思決定をめぐる対話を続けてきた経験は、本講演の臨床的基盤となっている。

歯科医療者は、口腔を起点に摂食嚥下の全工程を連続して診ることのできる、数少ない専門職のひとつである。「食べられない」と判定される前段階からの関わりが、意思決定の選択肢そのものを変えうる。本講演が、生活の場で食を支える多職種協働の一助となれば幸いである。