講演情報

[SY4-4]後期高齢者の口腔と健康:20万人の医療ビッグデータによる実証

○豆野 智昭1,2 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座、2. 大阪大学歯学部附属病院 咀嚼補綴科)
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【略歴】
2014年 大阪大学歯学部 卒業
2019年 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 修了
2019年 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 助教
2025年 大阪大学歯学部附属病院 咀嚼補綴科 講師
 超高齢社会を迎えたわが国では,健康寿命の延伸が重要な政策課題であり,口腔の健康がその鍵の一つとして注目されている。口腔機能の低下は低栄養やフレイルの引き金となり,全身の健康や生命予後に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。しかし,これまでの研究の多くは残存歯数を指標としており,欠損歯列のパターンや咬合支持の状態,補綴の有無といった臨床的多様性を包括的に捉えた大規模研究は限られている。高齢者では多くの者が歯の欠損を有するが,義歯によって機能が補われている場合も多く,残存歯数と実際の口腔機能とは必ずしも一致しない。口腔と全身の健康との関連をより詳細に解明し,臨床的介入の根拠を得るためには,欠損の位置,咬合支持の程度,補綴による機能回復の有無を含めた多角的な評価が求められる。
 我々は,大阪府後期高齢者医療歯科健康診査(歯科健診)の受診者約20万人を対象とした大規模コホート研究(OHSAKA study)を進めている。本研究は,大阪府後期高齢者医療広域連合・大阪府歯科医師会・大阪大学を中心とした研究機関の連携体制のもと,国保データベースの医療・介護データと歯科健診データを連結・分析する医療ビッグデータ研究である。これにより,咬合支持の状態と口腔の経年変化,欠損補綴治療と健康アウトカムとの関連を臨床的視点から検討することが可能となった。これまでの解析から,以下の知見が得られている。約9万4千人の縦断解析では,臼歯部の咬合支持が失われた者でその後の歯の喪失リスクが段階的に上昇し,とりわけ前歯部でその傾向が顕著であった。咬合支持の喪失が欠損拡大の連鎖を招くという臨床知見を,大規模データが裏づけた形である。また,約18万7千人の生存解析では,咬合支持が低下した者において,適合の良い義歯の使用が死亡リスクの上昇を緩和する一方,不適合義歯や義歯の非使用はリスクをさらに増大させることが明らかとなった。
 本講演では,これらの知見を踏まえ,後期高齢者における口腔状態の評価のあり方,口腔状態の変化に関わるリスク要因,そして欠損補綴治療がもたらす健康への影響について論じる。20万人の医療ビッグデータから得られた知見を,一人ひとりの口腔管理と健康にどうつなげるかを考察したい。