講演情報

[SY5-1]口腔機能低下症の“これまで”と“これから”

○上田 貴之1 (1. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)
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【略歴】
1999年 東京歯科大学卒業
2003年 東京歯科大学大学院歯学研究科修了
2003年 東京歯科大学・助手
2007年 東京歯科大学・講師
2007年 長期海外出張(スイス連邦・ベルン大学歯学部補綴科客員教授)
2009年 東京歯科大学復職
2010年 東京歯科大学・准教授
2016年 文部科学省高等教育局医学教育課技術参与(2018年まで)
2019年 東京歯科大学・教授
2025年 東京歯科大学水道橋病院副病院長

【主な活動】
日本老年歯科医学会 常任理事・専門医・指導医
日本補綴歯科学会 常務理事・補綴歯科専門医・指導医・学術委員長
日本歯科医学教育学会 理事・編集・広報委員長
 口腔機能低下症は、2016年に日本老年歯科医学会が提唱した病名であり、口腔機能の低下を包括的に捉え、評価と管理を体系化する大きな契機となった。それ以前から歯科は、歯と歯周組織の治療や補綴治療などを通じて、咀嚼機能の維持・回復に関わってきた。また、唾液分泌、味覚、嚥下など、より広い範囲の口腔機能の診断や治療にも深く関わってきた。しかし、それらは個別の症状や障害として扱われることが多く、口腔全体の機能低下を共通の視点で捉え、継続的に支える枠組みは十分に明確ではなかった。口腔機能低下症の概念は、こうした実践をつなぎ直し、歯科医療に新たな視点をもたらしたといえる。
 2018年4月には、口腔機能低下症の診断のための検査料および管理料が歯科の公的医療保険に収載された。これにより、口腔機能低下症は、口腔機能発達不全症とともに、日本の公的医療保険制度の中で明確に位置づけられることとなった。これは、歯科が全ライフステージにわたり口腔機能を支える基盤が、制度として整備されたことを示すものであった。その後、診療報酬改定のたびに対象や運用は拡充されてきた。2026年4月には、各種検査の施設基準が撤廃された。これにより、口腔機能検査は、一般の歯科医療機関で実施可能な検査となったともいえるだろう。このような経緯もあり、当初は検査法の理解と導入に向けられていた関心は、近年では、検査結果をいかに日常診療の中で生かし、継続的な管理につなげるかへと移ってきている。
 この流れの中で、歯科衛生士に期待される役割はますます大きい。口腔機能低下症の検査と管理は、歯科医師の指示のもとで歯科衛生士が担うことができる。歯科衛生士は、高齢患者にとって身近な医療専門職の一つであり、生活背景や日常の小さな変化に寄り添いながら支援を継続できる存在である。口腔機能管理は、これまでの臨床に特別な何かを新たに付け加えるものではなく、これまで行ってきた口腔衛生管理とともに実践されるべき口腔健康管理の一部である。このような口腔健康管理の実践の質を高め、口腔機能低下症を真に患者支援へ結びつけていく鍵は、歯科衛生士の力にかかっている。
 本講演では、口腔機能低下症のこれまでの歩みを振り返るとともに、これからの発展に向けて歯科衛生士に期待される役割と可能性について考えたい。