講演情報

[O6-3]「住み慣れた大空町で最期まで」を実現するための10年間の軌跡:超医師不足地域におけるICTとリアルタイム映像伝送の活用成果

山木 悠太 (大空町東藻琴診療所)
【はじめに】 北海道大空町は、東京23区の約半分に相当する広大な面積に対し、常勤医は2名のみである。そのうち1名の医師が診療所所長業務をこなしながら、町内唯一の訪問診療医として看取り対応を担うという、極めて脆弱かつ過酷な医療体制下にある。2015年以前、同町での看取り実績はほぼ皆無であった。本報告では、この厳しい制約下において、10年間で住民と専門職がどのように「地域で最期を支える」体制を構築したか、そのプロセスとICT活用の成果を報告する。【活動】 2015年からの10年間、以下の活動を展開した。1)地域初となる「胃癌末期患者の在宅看取り」への多職種介入。この成功は、専門職にとって「この体制でも看取れる」という強力な成功体験となった。2)本大会長・大友宣先生を招聘した住民向け講演会。これにより「大空町でも最期まで過ごせる」というメッセージが浸透し、住民の不安が安心感へと変容した。3)医師1名体制を補完するICTの導入。多職種連携ツール(MCS)に加え、リアルタイム映像伝送システム「ビジュアルトーク」を活用した。これにより、訪問看護師等が捉えた現場の動画像を医師が遠隔地からリアルタイムに確認でき、所長業務の合間でも迅速かつ的確な指示と判断が可能となった。この「医師と常に繋がっている安心感」が、多職種の自律的な活動を支える基盤となった。【考察】 2015年に0件であった在宅・施設看取り数は、直近で年間24件、地域全体の看取り率22.6%(24/106人)に達し、地域文化を刷新した。超医師不足地域における変革の鍵は、象徴的な成功体験、住民啓発、そしてICTによる「診療の質の補完」である。特に映像伝送による視覚情報の共有は、医師1名体制の限界を克服し、多職種連携の質を飛躍的に高めた。10年をかけて築いた信頼関係とテクノロジーの融合が、現在の看取り体制を支えている。