講演情報

[OS10-2]在宅医療現場におけるエンドオブライフ期の薬物療法 ― 老年科医の視点から ―

服部 ゆかり (東京大学医学部附属病院老年病科・職員等健康相談室)
米国クレアモント大学ピッツァーカレッジ心理学・神経科学卒業、北里大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京都健康長寿医療センター、米国ジョージワシントン大学、渓仁会札幌西円山病院を経て、東京大学医学部附属病院老年病科、水道橋東口クリニック(在宅医療)。2025年より東京大学医学部附属病院 職員等健康相談室・老年病科 助教、国立長寿医療研究センター在宅医療・地域医療連携推進部 外来研究員。
エンドオブライフ(EOL)期は、患者の予後を踏まえ、症状緩和やQOLを重視したケアへと移行する中で、薬物療法のベネフィットとリスクを再評価し、処方の見直しを行うべき重要な時期である。在宅医療は、多職種間での情報共有や処方調整を行いやすい環境にあるが、実際の現場でEOL期における薬物療法の最適化に結びついているかについては、十分なエビデンスが蓄積されておらず、具体的な実践方法も確立していないのが現状である。本シンポジウムでは、在宅医療を受ける高齢者を対象とした2つの全国規模研究の結果を紹介する。1つは、在宅医療を受けた高齢者の死亡前1年間における薬剤処方の経時的変化を検討した研究で、今回は心血管疾患予防薬に焦点をあてて考察する。心血管疾患の予防薬はEOLに近づくにつれて終了される傾向にあるものの、死亡前1か月間においてもなお高頻度に処方されていることを示した。もう1つは、在宅医療を受けるがん高齢患者における薬剤処方の現状を明らかにした研究であり、脂質異常症治療薬や骨粗鬆症治療薬などの予防薬が一定割合で継続処方されている実態を明らかにした。これらの結果から、限られた生命予後の時期にある高齢者においては、薬物療法のベネフィットとリスクの再評価が必ずしも容易ではなく、十分な処方最適化が行われていない可能性が示唆された。また、2つの研究に共通して、EOLに近づくにつれて症状緩和を目的とした薬剤が増加していた。EOL期における薬物療法の質を高めるためには、症状緩和薬と予防薬のバランスに加え、患者の状態や価値観を包括的に評価する視点が重要である。本シンポジウムでは、これらの知見を踏まえ、老年科医の視点から在宅医療現場におけるEOL期の薬物療法の課題と、今後求められる実践の方向性について考察する。