講演情報
[P1-199]鎮静を希望する末期がん患者の尊厳を守り、家族との対話の時間を確保できたー症例 ~意思決定と家族支援の難しさ〜
和田 達也, 末武 佳子, 久松 正倫, 三明 和代, 有江 佑吏, 長曽我部 望, 片山 欽三, 木下 竜弥 (みつぼし在宅クリニック)
【はじめに】在宅終末期がん患者において、緩和的鎮静の導入は症状緩和に有用だが、意識低下により家族との対話が断たれるという倫理的葛藤が生じやすい。そのため、患者の身体的苦痛だけでなく患者・家族双方の価値観や心理状況を考慮し診療する必要がある。本報告は、在宅医療において患者の自尊心を保ちつつ、家族との対話の時間が確保できた症例である。【症例】74歳、独居男性。末期胃癌の強い倦怠感に対し「早く楽にしてほしい」と鎮静を希望された。一方、長女は「亡くなる前に生前整理の話をしたい」と願っていたが、本人は長女に対し「すぐ帰れ」と早めの帰宅を促すような態度をとり、対話を自ら頑なに閉ざしていた。看護師は、この態度の背景には「娘に弱った姿や苦しむ姿を見せたくない」という父親としての自尊心があると丁寧にアセスメントした。導入に際し、看護師は本人に「娘さんが心の準備をできるよう、最後に言葉を交わしてほしい」と丁寧に働きかけ、対話の同意を得た。医師には、意識を消失させない微量からの開始と、表情や反応に基づく増量を提案した。多職種連携により身体的苦痛の緩和と家族との時間を両立した結果、長女と最期の穏やかな対話ができ、長女からは「いい最期でした」との言葉が聞かれた。【考察】本症例では、患者が「娘に辛い姿を見せたくない」という気持ちから、娘との対話を避けるという背景があり、看護師が両者の思いを丁寧に把握し、気持ちを汲み取ることが重要であった。鎮静導入に際しては、患者の苦痛緩和だけでなく、家族が抱く後悔や葛藤を最小限にする視点が求められる。看護師が患者・家族双方の思いを医師へ的確に伝え、鎮静深度の調整に反映させることで、苦痛緩和と家族との対話を両立することができた。在宅看取りにおける看護師の役割は、患者本人の苦痛緩和の支援だけにとどまらず、家族ケアの重要性が必要不可欠であると考えられる
