講演情報

[P1-20]音楽を通じて患者-医療従事者間のコミュニケーションに改善がみられた重症心不全の一例

琴岡 憲彦, 藤原 元嗣, 浅香 真知子, 野澤 桂司, 山本 巻一 (医療法人葡萄の木 ぶどうの木クリニック)
【はじめに】在宅看取りを前提とした終末期患者の多くはスピリチュアルペインを抱えていると考えられ、家族や医療従事者が患者とのコミュニケーションに悩む場面は多い。
【症例】50代男性。X-2年に悪性リンパ腫に対する化学療法により完全寛解に至ったが、X年2月に急性心不全のため前医に救急搬送され、がん治療関連心機能障害と診断、強心薬持続点滴を含む治療が開始された。入院中に心原性脳塞栓症を2回発症し、高次脳機能障害が残存した。その後も強心薬持続点滴を離脱できず、X年4月に退院、訪問診療による在宅静注強心薬持続投与が開始された。発症以来、実姉が帰郷して介護に当たっていたが、コミュニケーションは単純な要求のやり取りのみ、医療従事者との意思疎通も困難で、高次脳機能障害の影響と考えられていたが、患者は病前からロックミュージシャンY氏の熱心なファンであったことから、当院所属のミュージシャンによる自宅ライブを計画した。ライブ当日、Y氏の曲の演奏が始まると、患者は嗚咽し、拍手とともに「最高」と叫び、その後数曲をリクエストした。以降、訪問時には患者から自発的な発言が聞かれるようになり、コミュニケーションが有意に改善した。また、母親を温泉に連れて行くことを目標に心臓リハビリテーションに励むようになり、7月には当院のロビーコンサート参加のため外出を果たしたが、以降はカテーテルトラブルと心不全コントロールに難渋し、11月、Y氏の50周年ライブを生配信で見届け、翌未明に他界した。最後の言葉は「もう充分です、最高」であった。
【考察】重症心不全に限らず、終末期におけるスピリチュアルペインの緩和に苦慮することは多い。スピリチュアルペインの内容は人生ごとに異なり、医療・ケア提供側にすべての引き出しを用意しておくことは不可能であるが、ナラティブをふまえた個別の対応により、一定の効果が得られた症例を経験した。