講演情報
[P1-205]叶わなかった自宅での最期―非がん終末期患者における在宅看取りの障壁の検討―
吉岡 志保1, 中安 一夫2 (1.飯塚病院, 2.頴田病院)
【はじめに】多くの患者が自宅での最期を望むが、特に非がん終末期患者では在宅看取りが困難な症例も少なくない。本発表では、在宅看取りを強く希望しながらも病院で死亡した非がん終末期患者の一症例を報告する。在宅看取りを阻んだ要因を生物学的・心理的・社会的側面から多角的に分析し、同様の症例における主治医の役割と介入を考察する。【症例】70代男性。慢性心不全(Stage D)、慢性腎不全(G4)、非代償性肝硬変を基礎疾患とし、独居で生活保護を受給していた。要介護2で訪問診療・看護・介護を導入し在宅療養を行っていた。本人は「飼い猫が心配」と在宅療養を強く希望していた。胆管炎での入院中に腎機能が急激に悪化したが、本人は透析を希望せず、看取り方針で自宅へ退院した。しかし退院後12日目に自宅で吐血し救急搬送され、翌日未明に病院で死亡した。【考察】本症例で在宅看取りが叶わなかった要因は複合的である。生物学的要因として非がん疾患特有の予後予測の困難さと急変リスク、心理的要因として介護未経験の友人である主介護者への短期的な負担と不安の集中、社会的要因として非がん患者への制度的支援の限界や地域資源の格差が挙げられる。これらを踏まえ、主治医には以下の介入が求められたと考察する。まず、病状悪化や急変の可能性を具体的に言語化し、対応策を本人・介護者と事前に共有するACPの徹底。次に、介護者の不安や疲労を早期に察知し、支援体制の限界を見据えた介入の検討。さらに、急変時に医療者側で生じがちな期待を避け、本人の価値観と治療方針を多職種間で繰り返し確認・共有し、意思決定を支える体制構築が重要である。結論として、主治医が「支える者を支える」視点を持ち、制度的制約を踏まえた備えを主体的に行うことが、患者の希望する在宅看取りの実現に極めて重要だと示唆された。
