講演情報

[P1-25]出張除夜の鐘から、在宅医療で煩悩を考える~「あるがまま」を受け入れるスピリチュアルケアの視点

髙田 賞子1,2, 矢崎 貴子1,2, 新城 汐里1,2, 濵田 努1 (1.医療法人 浜友会, 2.訪問看護ステーションつむぐ)
【はじめに】 2020年の厚生労働省調査では在宅で気管切開を伴う人工呼吸器使用者は全国で約7700名にのぼる。在宅療養中の患者は行動が制限され、生活の自由を奪われることが多く、苦しみを感じるケースが少なくない。当院では外来・施設・在宅診療の各現場へ「出張除夜の鐘」を運び外出困難な患者にも季節の風物詩を届ける活動を行っている。本報告では、この活動を通じてある患者が自身の「煩悩」と向き合い自己受容に至った一例を提示する。【活動】 40代女性。炎症性腸疾患に伴う低栄養と2型呼吸不全により、在宅人工呼吸器管理を行っている。70代の両親と同居し、医療不信が強く訪問看護を端緒に多職種連携を展開したが、行動制限への葛藤から精神的に不安定な状態が続いていた。年末、医師とスタッフが自宅へ除夜の鐘を持ち込んだ際「まさか今の自分が鐘をつけるとは思わなかった」と驚かれた。その際、医師は以前僧侶から授かった浄土真宗における教え「煩悩をなくして清くなるのではなく、煩悩を抱えた身のまま、その自分を受け入れる」を伝えた。彼女は鐘の音と共にその意味を噛み締め「このままの自分で良いと思えた。」と静かに語り、その表情には穏やかさが戻っていた。【考察】 本症例における精神的苦痛の根底には「健康であった頃の自分」への執着と、それが叶わない現実との乖離(スピリチュアルペイン)が存在した。除夜の鐘という文化的儀式と医師が「煩悩の受容」という宗教的ナラティブを伝えたことで、患者は「苦しみを持つ自分」を許容する機会を得た。鐘をつく行為は単なるイベントを超え、患者が自身の限界と可能性を再定義し、自己肯定感を回復させるケアとして機能した。在宅医療において、我々は身体管理だけでなく、患者が「ありのままの自分」を認められるよう、その心に寄り添い、きっかけを届けることもまた、私たちの大切な役割ではないだろうか。