講演情報

[P1-4]在宅医療分野におけるネガティブ・ケイパビリティの存在と意義;複合的な困難さをもつ患者の心と状況の変化に寄り添い、関係性を維持して介入した一例

日高 理彩, 磯辺 直基, 三原 雅子, 加藤 裕子 (医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック)
【はじめに】
在宅医療では、明確な解の得られない場面に頻繁に遭遇する。近年、このような不確実性、曖昧さに耐える能力としてネガティブ・ケイパビリティが注目されているが、在宅医療分野においてその意義は十分検討されていない。今回、在宅ケアチームは複合的な困難さを持つ患者の明確な解の得られない事態に直面した。本症例を通して、在宅医療分野におけるネガティブ・ケイパビリティの存在と意義について考察する。

【症例】
40歳代女性、子宮頚癌術後、腹膜播種・大腿筋転移を有し、在宅移行後に強い疼痛を呈した。難治性疼痛に対し複数の鎮痛法を用いたが、十分に軽減せず、強い不安も重なり、希死念慮や深い鎮静を訴えるようになった。在宅ケアチームは医学的妥当性や家族の思い、今後の見通しの不確実性を踏まえると、患者の言葉だけで即時の意思決定とすることが躊躇われ、患者と選択について長時間の対話を複数回重ねたが、その過程には多くの心理的ストレスを伴った。常に意思決定は曖昧さを持っていたが、全身状態が変化する中で鎮静剤導入となり、2か月家族と過ごした後、希望していた自宅で最期を迎えられた。

【考察】
本事例では、在宅ケアチームが患者との模索的な対話を重ねながら、患者の心と状況の変化を待つ態度で寄り添い続け、関係性を維持した過程に、ネガティブ・ケイパビリティの存在が見出された。そして、その関わりは在宅療養の継続を支え、患者と家族が共に過ごす時間が生まれることに寄与したと考えられた。一方で、患者が抱く苦痛の語りを聞き続けることしかできていないのではないかという心の葛藤があった。明確な解の得られない状況を支える中で、時間をともに生きる在宅医療の在り方を意味づける振り返りが必要であり、日々の関わりの中でネガティブ・ケイパビリティの存在を意識する姿勢には意義があると考える。