講演情報

[P1-8]医学的常識は誰のための安全か
― 全盲・下肢切断後も在宅生活を選択した一例 ―

竹下 みちよ (訪問看護ステーションここな)
【はじめに】
在宅復帰の可否判断において、医療従事者は転倒や急変などの医学的リスクを重視し、安全性を優先することが多い。しかし、その判断が必ずしも本人にとって意味ある生活の実現につながるとは限らない。本報告では、医学的には在宅生活が困難と評価されやすい状況下で、本人がリスクを理解した上で在宅生活を選択し、訪問看護の継続的関与により生活を維持している一例を報告する。
【症例】
症例は50代男性。慢性腎不全により血液透析中で、糖尿病を基礎疾患に有する全盲・片下肢切断後の独居である。下肢感染を契機に入院し、疼痛のため切断術を受けた。退院支援では身体機能および住環境(エレベーターのない団地5階)から施設入所が提案されたが、本人は転倒や通院負担のリスクを理解した上で自宅生活を強く希望し、在宅復帰を選択した。退院後より訪問看護が介入し、生活支援と体調管理を継続している。現在も週3回の透析通院を継続し在宅生活を維持している。
【考察】
本症例では、医療者が懸念するリスクは本人にとっても認識された前提条件であり、それを上回る「自宅で生きる」という価値が在宅継続の原動力となっている可能性が示唆された。身体機能や環境条件のみでは在宅生活は困難と判断されやすいが、訪問看護が退院後から継続的に関わり、リスクを共有しながら支えることで、意味ある生活の維持が可能となっている。在宅医療の意思決定支援には、医学的安全性に加え、本人が引き受けるリスクと生活への動機づけを踏まえた総合的視点が求められる。