講演情報

[SP2]役に立たなきゃ生きてちゃいかんか?:アンチエイジングに抗して

上野 千鶴子 (認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク)
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長・上野千鶴子基金代表理事。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。社会学博士。平安女学院短期大学助教授、京都精華大学助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授、1995年同人文社会系研究科教授。2012年立命館大学特別招聘教授。元学術会議会員。専門は女性学・ジェンダー研究、高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。『当事者主権』(中西正司と共著、岩波新書)、『ケアの社会学』(太田出版)『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』(法研)、『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版)『おひとりさまの逆襲』(小島美里と共著、ビジネス社)『史上最悪の介護保険改定⁈』(樋口恵子と共編著、岩波ブックレット)『「おひとりさまの老後」が危ない!』(高口光子との共著・集英社新書)『当事者主権 増補新版』(中西正司と共著・岩波書店)、『アンチ・アンチエイジングの思想 ボーヴォワール「老い」を読む』(みすず書房)等がある。
医学界では抗老化医療の研究が盛んである。老化の生理的メカニズムはほぼ明らかになった、したがって抗老化医療は可能だという人もいるし、認知症の治療薬ができたらノーベル賞ものだという人もいる。アンチエイジング市場は、美容整形を含む医療のみならず、身体管理、コスメ、ファッションなど巨大な市場を形成しつつある。その背後には人生100年時代を迎えながら、「長生き地獄」を呪わなければならない、社会の加齢恐怖(エイジズム)が根強く広がっている。カネになるアンチエイジング医療に対して、在宅医療というカネにならない現場にいる看取りの医者は、誰も避けることのできない人生の終末に立ち合ってきた。だが医療の現場には医師と患者(そしてその家族)がいる。在宅医療は医師の死生観を変えたが、受け手である患者や家族が延命を求め、老化や死に抵抗するとしたら、専門家はいったい誰のどのようなニーズに応えればいいのか?あるいは在宅を希望する患者に対して、施設送りを選ぶ家族のニーズが対立するときには、どうしたらいいのか?変わらなければならないのは専門職ばかりではない、患者自身、そしてそれを取り囲む社会の死生観が変わる必要がある。
今から半世紀前、シモーヌ・ド・ボーヴォワールは『老い』のなかで、「老いは文明のスキャンダルである」と書いた。その大著を手がかりに、現代におけるエイジズムの課題とその克服の可能性について考えてみたい。
参考文献:上野千鶴子『アンチ・アンチエイジングの思想』みすず書房、2025年