[IL]ゲノム科学と医療:情報でつなぐミクロとマクロ
*小原 收1,2(1. 千葉大学未来医療教育研究機構、2. 公益財団法人かずさDNA 研究所ゲノム事業推進部長・副所長)
キーワード:
ヒトゲノム、DNA シーケンシング、オミクス解析、データ駆動型アプローチ、ゲノム医療
1970 年代後半に生まれたDNAシーケンシング技術の継続的な進歩により、21世紀始めにはホモ・サピエンスとしての自分自身の遺伝情報の全体像を手に入れるまでに至った。しかしそこでヒト遺伝子解析の歩みは留まることはなく、より高速・大量のDNAシーケンシングを実現する技術革新によって、昨今では、それぞれの個人の塩基配列レベルの全遺伝情報を数万円のコストで取得することができるまでになっている。その結果、現時点では既に数100万人以上の全ゲノム情報が地球上には蓄積されていると考えられている。こうした背景には、個人のゲノム解析データを活用することで、個人の体質に合わせた個別化医療が可能となることや遺伝情報から疾患に罹患する前に防御策を講じられる可能性などへの漠然とした大きな期待があった。しかし、ゲノム情報自体は分子レベルの時空間性のないミクロレベルの情報に過ぎない。この静的なミクロ情報から、どのようにして臨床情報という時空間性を有する動的なマクロ情報が環境との相互作用の結果として生まれてくるかを明らかにすることが、現在のゲノム科学の非常に大きな課題である。
本講演では医療情報を扱っている専門家に、漠然とした期待を込めて語られることが多いゲノム科学の現状をまず理解いただき、その上でこれからどのような取り組みを進めることでゲノム医療に対して私たちが期待するところを実現できるのかを考えてみたい。ゲノム科学はしばしば生命科学にデータ駆動型アプローチを導入したと言われるが、それが万能のアプローチではないことはほぼ自明のことである。データがどのような「情報」を運んでいるかが重要であり、実際にはその「情報」がミクロの世界とマクロの世界の二つの階層を結びつけてくれることを期待している。医療情報の専門家に、こうした次世代のゲノム医療の形を考えてみる機会を提供できればと考えている。
本講演では医療情報を扱っている専門家に、漠然とした期待を込めて語られることが多いゲノム科学の現状をまず理解いただき、その上でこれからどのような取り組みを進めることでゲノム医療に対して私たちが期待するところを実現できるのかを考えてみたい。ゲノム科学はしばしば生命科学にデータ駆動型アプローチを導入したと言われるが、それが万能のアプローチではないことはほぼ自明のことである。データがどのような「情報」を運んでいるかが重要であり、実際にはその「情報」がミクロの世界とマクロの世界の二つの階層を結びつけてくれることを期待している。医療情報の専門家に、こうした次世代のゲノム医療の形を考えてみる機会を提供できればと考えている。
