講演情報

[P-127]前歯部人工歯排列に対する審美感覚への歯学教育の効果に関する検討

*大楠 弘通1、渡辺 崇文1、槙原 絵理1、八木 まゆみ1、李 宙垣1、葛山 平1、末次 昇平1、有田 正博1 (1. 九州歯科大学顎口腔欠損再構築学分野)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【目的】
 前歯部補綴治療を計画する際,歯科医師と患者双方の審美感覚が重要なファクターとなる.予備研究において若年者に対し,前歯部人工歯排列の審美感覚に関する調査を行った結果、教科書的な排列は好まれない傾向にあった.そこで本研究では、九州歯科大学歯学部歯学科2年生および5年生に対して前歯部人工歯排列画像を用いたアンケート調査を行うことで、歯学教育による前歯部人工歯排列に対する審美感覚の変化を検討することとした。
【方法】
 対象は,本学歯学部歯学科2年生75名,5年生75名とした.アンケート調査には,4パターンの人工歯排列画像を用いた(図).A:一般的な前歯部人工歯排列.B:側切歯を中切歯および犬歯と同一平面とした排列.C:Aの排列から犬歯歯軸を垂直にした排列.D:Bの排列から犬歯歯軸を垂直にした排列.上記について,「質問1:審美的に見て好ましいかどうかを10段階評価」,「質問2:自らの口腔内を考えた際に,最も好ましいものを1つ選択」の2つの質問について回答を得た.質問1でのそれぞれの排列における平均得点について,一元配置分散分析後,Post hoc testとしてボンフェローニ法を用いた.(有意水準p<0.05)
【結果と考察】
 結果を表に示す.質問1について,2年生では各項目間に有意差は見られなかった.5年生では,C-D間以外に有意差が見られた(それぞれp<0.001).対象者について,2年生は歯学分野の講義が少なく,一般的な若年成人の感覚を反映していると考えられる.対して,5年生は歯科CBT・OSCEに合格し,歯科専門知識を得た状態である.それぞれの排列について,Aを基本的な排列とするならば,Bは水平軸が一致,Cは垂直軸が一致,Dは水平と垂直軸が一致した排列である.質問1について,2年生では各項目間に有意差は見られなかったが,5年生ではC-D間以外に有意差が見られ,Aが最も高い平均得点となった.2年生が各々の審美感覚によって評価する一方,5年生は歯科医師として求められる審美感覚に基づいた評価をする傾向にあったと考えられる.質問2については,2年生ではB,Dがよく選択される傾向にあり,水平軸の統一感が好まれる可能性が示唆された.5年生では一般的な排列が最も選択された.これらのことから,大学における歯学教育は,前歯部の審美感覚に対し変化を与えている可能性が示唆された.