講演情報

[P-56]引張り及び圧縮応力がインプラント周囲骨の骨吸収および骨形成パラメータに及ぼす影響

*李 彬1、謝 倉右2、毛利 有紀1、松野 瞳1、大河原 久実1、若林 則幸1 (1. 東京科学大学 医歯学総合研究科生体補綴歯科学分野、2. 東京科学大学 医歯学総合研究科口腔病理学分野)
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【目的】
 インプラント周囲骨の骨量維持には適切な力の制御が重要であると報告されてきた.しかし,咬合力など骨への機械的負荷を引張と圧縮の異なる側面からなる応力特性として定量化し,これらの指標と骨量維持との関係性を検証する試みは十分ではなく,とくに生体内で生じた応力値と骨代謝との関係性は不明であった.本研究の目的は,機械的負荷により生じたインプラント周囲骨の応力特性を分析し,これが骨吸収・骨形成に与える影響を評価することである.また前報との比較から,インプラントと天然歯の力に対する反応の相違を検討した.
【方法】
 4週齢の雄性マウスの上顎左側第一大臼歯を抜歯し,12週齢でインプラントを埋入した.埋入4週間後からインプラントに対して0.9 Nの実験的荷重を1日30分間,7日間与えた.安楽死前日に蛍光色素を皮下注射した.インプラント周囲骨骨頂から150µmの低位の位置で,咬合平面に水平な断面で非脱灰研磨切片を作成した.インプラント周囲120 um幅の組織を関心領域と設定し,遠心,頬側,近心,口蓋側に4分割して骨吸収・骨形成パラメータを計測した.µCTの撮影で得られたデータより有限要素モデルを構築し,組織切片と同部位の引張・圧縮応力の分布を算出し,応力と細胞活性との相関性を探った.
【結果と考察】
 荷重により骨吸収および骨形成パラメータが上昇したエリアでは引張または圧縮応力が集中したことから,歯槽骨に生じた引張または圧縮応力の集中は骨リモデリングを亢進させることが示唆された.一方,引張と圧縮応力がいずれも高値を示したエリアでは,圧縮応力と引張り応力が互いの組織への影響を緩和したことによりパラメータに有意差は認められなかった.同様の条件で天然歯に対して荷重した先行研究と比較して,インプラント周囲骨のほうが天然歯と比べて,広範囲にわたって高い圧縮応力が出現し,骨リモデリングも上昇した.このことから,圧縮応力の範囲と大きさの両方が歯槽骨における骨リモデリングに関与していることが示唆された.1)
【参考文献】
1) Matsuno H, Li B, Okawara H et al. Effect of tension and compression on dynamic alveolar histomorphometry. J Mech Behav Biomed Mater 2023; 138:105666.