講演情報

[P-77]チタン合金へのカルシウム水熱処理による上皮組織封鎖性の向上

*坂本 安繁1、古橋 明大1、熱田 生2、鮎川 保則1 (1. 九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴学分野、2. 九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座クラウンブリッジ補綴学分野)
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【目的】
 歯科インプラントの粘膜貫通部はチタン製のインプラントパーツと周囲の上皮組織(PIE)が接着構造物を介して接着しているが,天然歯周囲の上皮組織より封鎖性が弱いと報告されている.インプラントにおける上皮封鎖は外来因子の侵入を防ぐ上で重要と考えられているものの,その封鎖性を高める有効な手段は未だ確立されていない.そこで,水熱反応により金属に親水性やカルシウムを修飾することが可能な水熱処理に着目した.親水性を有するチタン表面やカルシウムは細胞の接着性を向上させることが知られていることから,本処理によるチタン表面の変化や上皮組織封鎖性向上への有効性を明らかにすることを目的とした.
【方法】
 チタン合金(Ti-6Al-4V)製のプレートおよびインプラントを使用し,塩化カルシウム水溶液で水熱処理したチタン(HT-Ca)を製作した.対照群は未処理チタン(Cont),蒸留水で水熱処理したチタン(HT-DW)とした.表面性状の解析では,走査型電子顕微鏡(SEM)による観察および微細構造解析に有効なX線吸収微細構造解析(XAFS)による元素解析を行った.動物実験では,4週齢雄性Wistarラット上顎右側第一臼歯を抜去し,2週間後にインプラントを埋入した.埋入4週後にカルシウムイオン結合性を有するラミニン332(Ln)の局在を観察し,西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をインプラント周囲溝に滴下し浸透の程度から上皮封鎖能を評価した.培養実験では,マウス由来歯肉上皮細胞株GE1を各チタンプレート上で培養し接着能を評価した.次に,上皮細胞の基底膜を構成するLnを標識し観察を行った.
【結果と考察】
 カルシウム水熱処理はSEMで確認できる倍率の範囲ではプレートの表面形状を変化させず,XAFSによる解析ではチタン酸カルシウムに類似した化合物が検出された.PIEの観察からHT-Caはインプラント界面全体に天然歯と類似したLnの発現を認め,HRPの侵入深度はHT-CaがCont,HT-DWと比較し有意に抑制されていた.培養実験から,HT-CaにおけるLnの明瞭な発現を認め,上皮細胞の接着能はHT-DW,HT-CaがContより有意に向上していた.
 以上の結果より,カルシウム水熱処理はLnに豊むPIEを形成し,上皮細胞のチタンへの接着性を高めることで上皮組織の封鎖性を向上させることが示唆された.