講演情報

[P-83]Ti-Mn合金におけるMnの添加量が硬さや耐摩耗性に及ぼす影響

*石川 幸樹1、山口 洋史1、高橋 正敏2、依田 信裕1 (1. 東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野、2. 北海道医療大学歯学部生体材料工学分野)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【目的】
 Tiは広く歯科領域で応用されているが耐摩耗性に劣るという欠点がある.一般に耐摩耗性に優れる金属は硬さが大きく,かつ適度な伸びを有する.先行研究では,TiにFeを添加したTi-Fe合金はFe添加量の増加とともに硬さが上昇し,特にβ相領域で耐摩耗性が改善するが,添加量が多すぎると金属間化合物が析出し,脆性を示すことを報告した1).この課題解決のため,新たにMn添加による合金化に着目した.Ti-Mn合金はTi-Fe合金と同程度の硬さを有し,かつFeよりもβ相領域が広く30%程度添加しても金属間化合物を析出しないため2),より耐摩耗性に優れた合金を開発できる可能性がある.そこで本研究は,Ti-Mn合金におけるMnの添加量が硬さや耐摩耗性に及ぼす影響を調査した.
【方法】
 スポンジTiとMnをアルゴンアーク溶解炉で溶解し,純TiへのMn添加量を5, 10, 15, 20%と変化させたTi-Mn合金インゴットを各3個試作した.インゴットは板状に鋳造し,表面硬化層を研磨により削除した.先端に直径3.0mmの鋼球を用いた圧子と往復摩耗試験機を用いて,水中で毎分60往復,滑走距離3.0mm,荷重4.9N,運動回数20,000回の条件で摩耗試験を行った.耐摩耗性は,表面粗さ測定機で測定した摩耗痕深さ,走査型電子顕微鏡で観察したSEM像,万能投影機で測定した摩耗痕幅にて評価した.また,硬さ試験機にてビッカース硬さを測定した.
【結果と考察】
 摩耗痕深さはMn添加量が増加するにつれて減少し,特に添加量10~15%で著しく減少した(図).硬さはMn添加量増加とともに増大し,これが耐摩耗性の改善に寄与したと考えられた.Mn添加量10, 15%を比較すると,硬さは同程度であったが15%で耐摩耗性は大きく改善した.10~20%Mn添加時のTi-Mn合金の合金相はβ単相であり2),β固溶体へのMn固溶量の増加が耐摩耗性の改善に貢献したと考えられた.以上よりTi-Mn合金はTiの耐摩耗性を改善する可能性が示された.また,Mn添加量が5~10%の間に硬さのピークが存在するため2),今後は同範囲内でのMn添加量が耐摩耗性に与える影響を調査する必要性が示唆された.
【参考文献】
1) Yamaguchi H, Takahashi M, Sasaki K, et al. Wear resistance of cast dental Ti-Fe alloys. Dent Mater J 2021; 40: 68-73.
2) 高橋正敏,笹崎浩司,髙田雄京.準安定β相により高強度を目指した歯科用Ti-Mn合金の機械的性質.日歯理工誌 2024;43:41-47.