講演情報

[P-94]Chd3遺伝子が歯頸部の幅径を規定する潜在的可能性

*嶋村 健斗1,2、野尻 俊樹1、近藤 尚知3、依田 浩子4、大津 圭史5、大島 勇人4、小林 琢也6、入江 太朗2 (1. 岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座冠橋義歯・口腔インプラント学分野、2. 岩手医科大学病理学講座病態解析学分野、3. 愛知学院大学歯学部冠橋義歯・口腔インプラント学講座、4. 新潟大学大学院医歯学総合研究科 口腔生命科学専攻顎顔面再建学講座 硬組織形態学分野、5. 岩手医科大学解剖学講座 発生生物・再生医学分野、6. 岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座 有床義歯・口腔リハビリテーション学分野)
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【目的】
 歯の欠損に対する治療法は, 義歯やブリッジ, インプラント, 歯の移植が選択としてあるが, 近年では, 天然歯の再生についても研究が進められている. 我々は, これまでに歯の発生においてクロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質3(Chd3)遺伝子が関与することを明らかにしてきた. 今回は, Chd3遺伝子ノックアウトマウスを用いて, Chd3遺伝子が歯の形態形成にどのような役割を果たしているのかを明らかにした.
【方法】
 Chd3遺伝子ノックアウトマウスは, CRISPR-Cas9法で作製した. 生後5週齢のChd3遺伝子ノックアウトマウスの下顎第一臼歯を摘出し, 形態学的解析を行った. 各発生段階の下顎第一臼歯は摘出後, 病理学的および免疫組織学的解析を行った. アデノウイルスベクターによるChd3 shRNAを導入した歯乳頭(mDP)およびヘルトヴィッヒ上皮鞘(HERS)細胞株におけるChd3遺伝子ノックダウンを細胞増殖アッセイおよびqRT-PCRで検討した.
【結果と考察】
 Chd3遺伝子ノックアウトマウスの下顎第一臼歯に歯頸部の幅の狭小化がみられ, 病理組織学的解析においても, 歯根形成前の生後8日目(PN)に同様の所見が認められた. 免疫組織学的解析では, PN1の歯乳頭, 特にPN8のapical papillaにおいてKi-67陽性細胞の減少が認められた. qRT-PCR より, Chd3はmDP細胞株ではShhの発現を促進し, Bmp4の発現を抑制した. HERS細胞株ではShhとWnt3aの発現を促進し, Bmp2の発現を抑制した. 歯頸部の幅は, 歯の発生過程において, Shh, Bmp, Wntシグナルを介し, Chd3遺伝子による初期の歯乳頭の形成を制御していると考えられる.
【参考文献】
1) Date Y, Kondo H, Yamashita A et al. Combined in silico analysis identified a putative tooth root formation-related gene, Chd3, which regulates DNA synthesis in HERS01a cells. Odontology 2020;108:386-95.