講演情報

[課題1]睡眠時ブラキシズム患者由来神経細胞における遺伝子発現変動と神経活動の評価

*佐藤 太朗1、山口 昂大2、大西 麻由1、安部 友佳1、石川 景一2、赤松 和土2、馬場 一美1 (1. 昭和医科大学大学院歯学研究科歯科補綴学分野、2. 順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センター)
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【目的】 
 先行研究において,睡眠時ブラキシズム(SB)患者由来のiPS細胞から分化誘導した単一神経細胞における興奮性の上昇を報告した.本研究では,SB患者由来iPS細胞から分化誘導した神経細胞集団を対象に,RNAシーケンス(RNA-seq)による遺伝子発現解析とマルチウェル微小電極アレイ(MEA)を用いた電気活動の評価を行うことで,SBにおける疾患標的細胞を同定し,細胞レベルでの発症機序を解明することを目的とした.
【方法】 
 SB患者3検体(SB1, SB2, SB3),健常対照3検体(CTRL1, CTRL2, CTRL3)のiPS細胞を脳幹領域の神経細胞へ分化させ,Bulk RNA-seqを実施した.発現変動遺伝子解析, KEGG Pathway解析により,SB特異的なDEG群を同定した.また,SB2とCTRL2の神経細胞集団にSingle nucleus RNA-seq(snRNA-seq)を行い,細胞種同定および神経細胞クラスターでの遺伝子発現を調査した.さらに,MEAを用いた神経活動の評価を行った.
【結果と考察】 
 Bulk RNA-seqではSB群でカルシウムシグナリング関連遺伝子の発現が上昇し,特にGPCRやROCを構成する遺伝子が有意に高発現していた.snRNA-seqの結果,神経細胞はグルタミン酸作動性神経(GluN),GABA作動性神経(GABAN),運動神経にクラスタリングされた.GluN,GABANクラスターにおいて,GRIN2B(NMDA受容体遺伝子)とCHRM3(ムスカリン受容体遺伝子)がSB2でCTRL2より高発現していた.MEA解析では,CTRL2と比較しSB2で神経活動の顕著な上昇が確認された. 
 本研究結果から,GRIN2BCHRM3の発現上昇がNMDA受容体・ムスカリン受容体の機能亢進を助長し,神経細胞間のシグナル伝達増加に寄与することで神経の活動性が上昇する可能性が示唆された.これらの遺伝子変化はSB患者における異常筋活動の一因となる可能性が示唆された. 
【参考文献】
1) Sarkar AK, Nakamura S, Nakai K, et al. Increase excitability of human iPSC-derived neurons in HTR2A variant-related sleep bruxism. Stem Cell Res 2022;59:102658.