講演情報

[課題3]細胞増殖活性に基づく新規歯根膜幹細胞の同定

*小野 喜樹1、土橋 梓1、小林 水輝1、Hlaing Pwint Phyu1、加来 賢1 (1. 新潟大学大学院医歯学総合研究科生体歯科補綴学分野)
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【目的】
 歯根膜は歯と歯槽骨を結合し,口腔機能を支える重要な組織であるものの,予知性の高い再生法は未だ確立されていない.その一因として,歯根膜幹細胞(PDLSC)の組織内局在や増殖分化動態が十分に解明されていないことが挙げられる.従来,PDLSCの局在解析には特定の遺伝子発現を示す細胞群を標識して長期追跡する方法が用いられてきたが,この手法では組織全体の幹細胞動態を包括的に捉えることが困難であった.本研究では,組織幹細胞の特徴である組織中での低い増殖活性に着目し,これをLabel-retaining cell(LRC)として検出するとともに,誘導性の多色蛍光ラベリングを用いて発生,リモデリング,および再生といった多様な生理的条件下での細胞増殖活性を解析し,新たなPDLSCを同定することを目的とした.
【方法】
 LRCの検出には,生後15日齢のマウスに5-ethynyl-2’-deoxyuridine(EdU)を5日間連続投与し,最長12週間にわたり標識細胞を追跡した.また,薬剤誘導性に単一細胞由来の細胞クラスターを追跡可能なRGBow: UBC-CreERT2(RGBow)マウスを使用し,発生(15日齢),リモデリング(最長1年間),再生(即時再植)の各過程における細胞クラスターの動態を組織学的に解析した.
【結果と考察】
 歯根膜発生期である15日齢のマウスにEdUを投与した結果,投与直後では歯根膜全域に約40%のEdU陽性細胞が検出されたが,12週間後には陽性細胞はセメント質近傍に限局し,その割合は約3%に減少していた(図1).また,LRCは高頻度で幹細胞マーカーを発現していた.さらに,RGBowマウスを用いた最長1年間の追跡では,細胞クラスターの成長速度は緩やかであるものの,歯根膜全域で多細胞クラスターが確認された.一方,発生期および再生過程における8週間の追跡では,細胞クラスター内の細胞数が顕著に増加し,特にセメント質表面で明瞭な多細胞クラスターが検出された(図2).
 これらの結果は,従来のPDLSCが骨近傍の血管周囲に局在するとされる概念とは異なり,セメント質近傍に新たな組織幹細胞が存在する可能性を示唆している.また,骨側に豊富な血管近傍の細胞群と比較して,セメント質近傍の細胞群は採取が容易であり,歯根膜再生において有効な細胞源となることが期待される.