講演情報

[課題7]無歯顎顎堤の顎堤の高さが口腔内スキャナによるスキャン精度におよぼす影響

*小林 嵩史1、竜 正大1、上田 貴之1 (1. 東京歯科大学水道橋病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【目的】
 近年,モデルスキャナや口腔内スキャナ(IOS)を用いて製作した複製義歯を利用し,CAD/CAM技術を応用することで,簡便かつ精度が良い総義歯の製作が可能となってきた.IOSによる一般的なスキャン精度はモデルスキャナでの精度と同等になってきたが,義歯形態によってはスキャンが容易な症例と困難な症例とが存在する.その原因の1つとして,我々は顎堤形態に起因する義歯形態の違いがあると考えた.そこで本研究では,顎堤の高さの違いが口腔内スキャナによる総義歯スキャン精度に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】
 東京歯科大学水道橋病院にてCAD/CAM技術を応用して上下顎総義歯製作を行った患者20名の義歯データから,日本補綴歯科学会の改訂版症型分類の欠損部顎堤高さの3レベル(高,中程度,低)に該当するものを上下それぞれ1症例ずつ抽出した.抽出した義歯データを歯科用積層造形機 (IDM-S, 松風)で造形し,各レベルの基準義歯とした.モデルスキャナ(D2000, 3Shape)を用いて基準義歯をスキャンしたものを基準データとした.基準義歯をIOS(TRIOS3, 3shape)にて3回スキャンし,STLデータにて計測データを取得した.取得データは,重ね合わせソフト(ZEISS inspect, 2023, ZEISS)にて基準データと重ね合わせ,それぞれの真度をカラーマップ表示した.計測データと基準データの偏差の平均は,上下顎の違いと顎堤高さのレベルの違いについて二元配置分散分析で解析した(α=0.05).
【結果と考察】
 カラーマップ表示では,上下顎共に大部分が義歯床の真度誤差の許容範囲0.3mm以内だったが,口蓋部などの平坦な部位や床辺縁で相対的に偏差が大きかった.基準データとの偏差(平均±SD)は上顎レベル高で0.135±0.08mmと最も大きかった.対して,レベル低の偏差は上下顎ともに平均で0.05mmを下回り,レベル高群との間に有意差を認めた.またレベル中の偏差は上下顎間で有意差を認めた(上顎:0.13±0.08mm,下顎:0.02±0.02mm).本結果より,無歯顎の顎堤高さは,IOSによるスキャン精度に影響を及ぼすことが明らかとなった.今後は顎堤断面形態などの形状についても検討を行う予定である.尚,本発表に対して患者からの同意は得られている.