講演情報
[I-OR10-03]反復する急性心不全の抑制にメキシレチンが効果的であったATP1A3遺伝子異常による多小脳回の女児例
○相田 麻依, 小澤 淳一, 高橋 勇弥, 岩下 広樹, 石綿 敬, 岡本 日向, 目黒 茂樹, 渡辺 健一 (長岡赤十字病院 小児科)
キーワード:
ATP1A3遺伝子異常、Na-K-ATPase、急性心不全
【背景】大脳皮質形成異常の一つである多小脳回の原因の一つとしてNa-K-ATPase をコードするATP1A3 遺伝子異常が報告されている。本疾患では一過性の心不全を生じるが、その病態および治療法については明らかにされていない。【症例】症例は5歳女児。35週5日に胎児機能不全のため緊急帝王切開で出生した。出生日から痙攣が頻発し、頭部MRIで特徴的な脳回と皮髄境界の石灰化を認め、多小脳回と診断した。遺伝学的検査でATP1A3 c. 2976_2978del、p.Asp992delを同定した。難治性てんかんに対して複数の抗てんかん薬を使用したがコントロールは困難であった。4歳2ヶ月時に肺炎で入院。回復期に心拍数100/分から急に40/分の洞性徐脈を生じた後に160/分の頻脈となり、泡沫状の血性痰が出現した。胸部レントゲンで肺うっ血像、心エコーで左室駆出率40%と心収縮低下を認め、急性心不全と診断した。心電図では広い誘導でT波陰転化を認め、BNPは771 pg/mLまで上昇した。カテコラミンを使用し、翌日には左室駆出率60%と速やかに改善した。カテコラミンは3日間で漸減中止した。4歳4ヶ月時にも同様のエピソードがあり、徐脈の予防のためシロスタゾールを開始した。しかし4歳8ヶ月時と 4歳9ヶ月時にも肺炎の回復期に同様に急性心不全を認めたため、メキシレチンを追加した。以降1年間、2回の肺炎治療中に徐脈はあったが心不全は認めていない。【考察】ATP1A3遺伝子異常ではNa-K-ATPaseの機能低下による細胞内Na濃度の上昇とそれに引き続くNa+-Ca2+交換体を介した細胞内Ca2+濃度の上昇がある。本症例では徐脈によるNa電流増大に引き続き、更なる細胞内Ca2+濃度の上昇が生じ、Ca2+過負荷による急性心不全を発症したと推察した。このためアップストリーム治療としてNaチャネル遮断薬のメキシレチンを開始し効果的であった。【結論】ATP1A3 遺伝子のバリアントを原因とする急性心不全の予防にメキシレチンは有効と考えられる。