講演情報

[I-OR10-04]大動脈離断症の遺伝的背景の解明

井上 忠1, 内田 敬子1,2, 古道 一樹1,3, 古谷 喜幸4, 稲井 慶4, 山岸 敬幸1,5 (1.慶應義塾大学医学部小児科, 2.東京医科大学細胞生理学分野, 3.東京都立大塚病院小児科, 4.東京女子医科大学循環器小児・成人先天性心疾患科, 5.東京都立小児総合医療センター)
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キーワード:

遺伝学的検査、CHARGE症候群、大動脈弓

【背景・目的】大動脈離断(IAA)は先天性心疾患の約0.6%を占める。遺伝的要因として22q11.2微細欠失がIAA type Bの30-50%に認められると報告されているが、これまでにIAAの遺伝的背景を系統的に解析した検討はない。本研究は、これまでの遺伝学的検査に加えてエクソーム解析を導入し、IAAの遺伝的背景を明らかにすることを目的とした。【対象・方法】先天性心疾患DNAバンクから選出したIAA 29例を対象とし、これまでに遺伝的背景が特定されていない14例にエクソーム解析を実施後、全29例の臨床情報と遺伝背景を検討した。【結果】エクソーム解析により、新たに2つの病的なCHD7バリアントを同定した結果、全IAA 29例のうち17例(58.6%)に遺伝的原因が特定され、内訳は22q11.2微細欠失10例、CHD7バリアント3例、ダウン症候群1例、Williams症候群1例、VACTER症候群1例、ホモ接合性TMEM260バリアント1例であった。IAAの病型では、22q11.2微細欠失にtype Aはなく、CHD7バリアントではtype A 2例、type B 1例だった。また、今回新たにCHD7バリアントが同定された2例は、CHARGE症候群の診断基準を満たしていなかった。【考察】今回の検討により、半数以上のIAA症例で遺伝的要因が検出された。特にCHD7バリアントが占める割合は従来の報告より多く、症状のバリエーションが幅広いCHARGE症候群では、臨床的な診断基準では診断に至らず、遺伝子検査で初めて診断できる症例があると考えられた。また、22q11.2微細欠失とCHARGE症候群では、いずれも心臓神経堤細胞の発生異常が推定されているが、IAA type AがCHD7バリアントの症例だけに認められることは、IAAのそれぞれの病型の発生機序を考察する上で興味深い。【結語】IAA患者の58.6%で遺伝学的病因が検出された。従来から知られている22q11.2微細欠失の次にCHD7バリアントが多く、さらに多彩な遺伝的背景が関与することが示唆された。