講演情報

[I-OR11-05]先天性心疾患の発症に関連する母体因子についてのケースコントロール研究

益田 瞳, 河島 裕樹, 土居 秀基, 渡辺 恵子, 西木 拓己, 小澤 由衣, 水野 雄太, 榊 真一郎, 白神 一博, 松井 彦郎, 犬塚 亮 (東京大学医学部附属病院 小児科)
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キーワード:

先天性心疾患、胎児心臓病学、生殖補助医療

【背景】生殖補助医療(ART)の普及に伴い、母体年齢の高齢化や妊娠糖尿病(GDM)、妊娠高血圧症候群(HDP)などの母体合併症のリスクが増加し、母体因子が先天性心疾患(CHD)の発症に与える影響が注目されている。高齢出産はCHD発症のリスク因子とされているが、ART妊娠におけるCHD発症との関連について明確なエビデンスはない。【方法】2019年から2023年に当院で分娩した4,301例を対象に、CHDの発症と母体因子(母体年齢、ART、GDM、HDP)との関連を後方視的に検討した。年齢による交絡を調整するため、CHD群と非CHD群(対照群)を1:2でマッチングし、条件付きロジスティック回帰分析を用いて比較検討した。【結果】母体年齢の平均は34.9歳(18∽56歳)であり、ART施行は998例(23.2%)、HDP合併は571例(13.2%)、GDM合併は497例(11.6%)、CHD発症は163例(3.8%)であった。母体年齢の上昇に伴い、ART施行率、HDP発症率、GDM発症率はそれぞれ増加傾向を示した。年齢マッチング集団におけるCHD発症リスクは、ART(OR = 1.13, 95% CI: 0.70∽1.84, p = 0.617)、GDM(OR = 1.98, 95% CI: 1.02∽3.82, p = 0.042)、HDP(OR = 0.56, 95% CI: 0.31∽1.00, p = 0.051)と、GDMとCHD発症に有意な関連を認めた。【考察】ARTはCHD発症の独立したリスク因子とは認められなかった。一方、GDMはCHD発症リスクを約2倍増加させることが示唆された。胎児は妊娠初期において高血糖の影響を強く受けるため、本研究は従来の知見同様GDMの早期診断と血糖管理の重要性を改めて強く支持する結果となった。HDPはCHD発症リスクを低下させる傾向を示したが有意性は認められず、今後はHDPがCHD発症に与える影響についてさらなる検討が必要である。母体合併症の適切な管理が児のCHD発症予防に寄与する可能性が示唆された。