講演情報
[I-P01-1-06]小児における特発性左心耳入口部狭窄の一例
○伊藤 啓太, 田中 敏克, 渡邉 望, 稲瀬 広樹, 飯田 智恵, 中井 亮佑, 久保 慎吾, 三木 康暢, 亀井 直哉, 小川 禎治, 城戸 佐知子 (兵庫県立こども病院 循環器内科)
キーワード:
左心耳入口部狭窄、左心耳、血栓塞栓症
【背景】左心耳入口部狭窄(LAAOS)は極めて稀な疾患であり、小児の報告例は極めて限られる。特に手術歴のないLAAOSの発生機序や病因は不明であり、三心房心との関連についても議論が続いている。血流停滞による血栓形成や内膜障害による心内膜炎のリスクが指摘されているが、血栓塞栓症のリスクに関する報告は少なく、臨床的意義は十分に解明されていない。【症例】2歳8か月の男児が動脈管開存症に対するカテーテル治療を目的として入院した。経胸壁心エコー検査で左心耳入口部に膜様構造とモザイク血流がみられたため、カテーテル治療時に経食道心エコーを実施した。その結果、左心耳と左房の間に径1.1mmの交通孔があり、bidirectional flow pattern を示し、通過血流速度は1.7m/sと加速していた。左心耳内に血栓はなく、塞栓症の既往もなかった。現在、無投薬で経過観察中である。【考察】手術歴のない特発性LAAOSの報告は過去に14例あり、小児はそのうち2例のみである。これまでの報告では、左心耳内血栓を伴った症例は成人1例に限られ、血栓塞栓症のリスクについては依然として不明な点が多い。LAAOSの診断には心エコー検査が有用であるが、その発生機序や病因は未解明である。本症例では、左心耳入口部の狭窄により通過血流が加速しており、これが壁応力を増大させ、線維化や血栓形成のリスク因子となる可能性が考えられる。一方で、血栓が形成されても入口部の狭窄により遠位へ血栓が流出しない可能性もある。以上から、当科としては左心耳内の血栓がないLAAOS症例は無投薬で経過観察を行う方針で良いと考えたが、長期的な経過観察は不可欠である。LAAOSは極めて稀な疾患ではあるが、血栓形成や塞栓症のリスク評価において重要な病態であり、心エコーで左房内に吹く異常血流を認めた際には本疾患に留意する必要がある。小児循環器領域での認識が求められる疾患であり、今後さらなる症例の蓄積と研究が期待される。