講演情報

[I-P01-6-04]奇静脈に還流する左上大静脈遺残: 稀な解剖学的バリエーション

林 立申1,3, 塩野 淳子1, 中村 和1, 出口 拓磨1, 坂 有希子2, 阿部 正一2, 堀米 仁志1 (1.茨城県立こども病院 小児循環器科, 2.茨城県立こども病院 心臓血管外科, 3.筑波大学医学医療系 小児科)
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キーワード:

静脈奇形、ファロー四徴症、中心静脈カテーテル

【背景】左上大静脈遺残(PLSVC)は先天性静脈バリアントの一つで一定の頻度で認められ、また他の心形態異常との合併も知られている。PLSVCのほとんどは冠状静脈洞(CS)を介して右房に流入するが、奇静脈に接続する報告は極めてまれでその頻度や臨床的意義はまだ不明である。
【症例】
症例1: 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖(PAVSD)、Smith-Magenis症候群。BTシャント術前の造影CTでPLSVCがCSに流入せず、T4レベルで椎体前面を横切り右側に走行、奇静脈に流入する所見が認められた。新生児期に左上肢から末梢中心静脈カテーテル(PICC)が挿入されたが、カテ先端は鎖骨下静脈内に留まりトラブルなく使用できた。1歳時に心内修復術を施行され、人工心肺に際しても特に問題はなかった。
症例2: ファロー四徴症、巨大臍帯ヘルニア。術前の造影CTではPLSVCはCSに流入せず、T4レベルで胸椎前面を横切り、奇静脈に還流後にSVCに流入した。新生児期に左上肢からPICCが挿入されたが、カテ先端はPLSVC内に留置され問題はなかった。3歳時心内修復術の際に人工心肺は通常通り管理できた。
症例3: 胎児PLSVCに対する精査目的で紹介された。胎児心エコーでPLSVCが認められたが、無名静脈はなく、CSの拡大もなかった。PLSVCは脊椎前方を横切り、奇静脈に流入した。その他の心異常はなかった。1歳時の造影CTでは症例1、2同様にPLSVCが奇静脈へ還流する静脈パターンであった。
【考察】本静脈パターンはLSVCと(半)奇静脈系との接合が胎生期から遺残した結果と考えられる。自験例ではPLSVCの奇静脈還流は他の心奇形や臓器異常との合併で認められる一方、症例3のような単独の静脈バリアントとしても認められた。その場合、症状を呈さないため、一定の未診断例が存在する可能性が考えられる。中心静脈カテーテル留置、デバイス治療、心血管手術の際に注意が必要となるため、本解剖学的バリエーションを認識することで適切な管理の一助になる。